悪意無き悪意

side ???


 あぁ、燃え上がる身体は憤怒の炎、突き動かす動きは怨嗟の心


 この身は生まれ変わったのだろう


 誰かの都合のいいように、俺の持ち腐れていた何かへの劣等感を利用されたのだろう


 だがしかし、この開放感は抑えられない


 さあ、暴れるだけ暴れよう


 壊せるだけ壊そう


 この箱庭を一度終わらせ、すべてを瓦礫に変えよう


 創造は破壊からしか生まれないのだから




side黒ウサギ

 ウサ耳を捩じってもいいアイデアが出ず、いっそ囮になると進言するも丁重に断られ、八方塞がりになってしまい、やはり元々の知識の差が大きいとなにも出来ないと悔しさを感じ始めた頃、状況が動き出しました。


「大変です!」


 飛び込んできたのは地域支配者の部下と思われる方が飛び込んできました。


「何があった!?」

「今まで沈黙を保ってた化け物が突如暴れだしました!」

「境界門は!?」

「破壊されました!」

「クソッ!」


 苛立ち混じりに持っていた契約書類を地面に叩きつけて、頭を抱える地域支配者に追い打ちをかけるように最悪の報告は続く


「それと・・・・・・」

「まだ何かあるのか!?なんだ?」

「今まで知性を感じさせなかった化け物ですが・・・・・・」

「無差別に暴れてると聞いたが?」

「それが避難民を襲う振りして階層守護者を誘い出し残存兵を全滅させたそうです」

「くそったれ!」


 治安維持の為に各地域に階層支配者の分隊が配置されているがその分隊が壊滅した以上、この地域には魔王の脅威から身を守ってくれる存在はいない。続けて入る報告には協力していた階層支配者の傘下コミュニティもほとんど戦力を削られたようでもはや籠城以外に取れる選択はなく、あと17時間持ちこたえるのは不可能。完全に詰んでいるとのことです。


 ・・・・・・審判者権限は使ったことはありませんがその場で宣言した方がいいのでしょうか?こんな時お兄様なら。そういえば


「お兄様は?」

「何を言ってる?」


唐突に聞いたのが悪かったのかもしれない。深呼吸をして一回落ち着くようにする。スーハ―スーハ―


「いえ、お兄様が無事なのか気になりまして」

「? 誰だそれは?」


 鳩が豆鉄砲を食ったように知らない人の事を聞かれたように地域支配者は答える。


「!? お兄様と商談とやらをしてましたよね?」

「商談?何の話だ?今日は商談などしてないが?」

「え?でもお兄様と」

「そもそもお主に兄などいないだろ?」


 ・・・・・・おかしいです。今日は大きな商談の細かいことを詰めるためと言って、あれだけ細々とお兄様と商談としていろいろな取り決めをしていたというのに、完全になかったことにされてます。


 ・・・・・・なかったことにされている? 記憶がない? それはどこかで見たような?


 バッ!と黒い契約書類を見直す、そのペナルティー事項には記憶を失うと書いてある。

 それはどういうことか?

 考えるまでもない。これは私を狙ったものでもあるかもしれないがお兄様が狙われたものであると!


「・・・・・・」

「ちょっと待て!?」


 その事実に気がついた時気がついたら私は飛び出していた。お兄様の事を忘れるという事はお兄様との思い出も家族の絆も何もかもを失うという事。

 誰からも忘れられることは寂しいことでしかない。


 我武者羅にお兄様を探して走り回っていると


 そこに化け物がいた。


 燃え盛る身体に異形の造形、その醜悪かつ凶悪な見た目からは恐怖しかわかない。それがこっちを見た。


 ――――動けない


 お兄様を見つけるために駆け出したのに目の前の現実的な脅威に対し、強力な恩恵も戦い方も逃げるという事さえも頭から掻き消える。


 ――――怖い


 真っ白になった頭からやっとその感情が絞り出せるが、どうすればいいのかどうしたらいいのかが全く浮かばない。「いたぞ!」「兎だと!?」「注意を引きつける!その間に確保しマスターの元へ!」「了解!」


 誰かが異形に攻撃し、それに異形が気を取らてて背中を見せたときに奇妙な感覚を襲う。「逃げるぞ!捕まれ!」 知らないはずなのに見覚えのあるようなよく見た光景。「聞こえてないのか!?仕方がない!」誰かに担がれて運ばれながらも懸命にそれを思いだそうとし、ふと気づく。


「・・・・・・お兄様?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る