短編集

鬼ごっこ

ザック、べキッ、ベチャッ

音がする。

ねっとりと絡みつく、真っ黒な音がする。

大きな、それでいて脆いものが壊れる音がする。

バキッ、グチッ

「…………ぅあ」

こちらへと伸びてくる。

隙間から見る景色は妖艶な赤だった。

目、があった。

「だぁずぅ………げ」

溺れた喉が必死に声を出す。

必死に、引きちぎれかけを伸ばす。

ごとっ、ベチャッ

命の落ちる音がした。

怪物（おに）は人間（にげるおもちゃ）を探す。

コリコリ、ガリガリ

硬いものを砕く音がする。

次が捕まった。

鬼が捕まえた。

柔らかい肉が軋む音がする。

ミチッ、メチャ

目を離せない。

体が動かない。

『鬼ごっこしよう？』

『僕が鬼でいいからさ』

後悔しても遅い。

始まってしまったのだから。

終わりは死を意味する鬼ごっこ。

始まりは契約を意味する鬼ごっこ。

迫ってくる鬼。

赤く滴るヨダレ。

生臭い鉄のにおい。

腐った肉のにおい。

自らを餌として鬼を退治する遊び。

餌を食い散らかす鬼の遊び。

『つーかまーえたぁ』

「あっ………………や…………あがっ…」

ちぎれる音がする。

ブチッ、ギチッ

ベチャッ、ボッチャ、グッチョ

何の音もしない。

逃げる音も、追う音も。

『………僕の勝ちだね』

鬼の勝ち。

さぁもう一度、鬼ごっこを始めよう。

次は勝てるといいね。