カラクリ

私は歩く。


立ち止まる。


踊る。


私の足はあらゆる方向へ向ける。


私の手は、とても柔らかく折れることは無い。


踊り出した私は止まれない。


お散歩にも時々行く。


とっても楽しみなお散歩だけど、転ぶのはいや。


荷馬車から落ちたこともあるわ。


泥まみれになって、笑われたわ。


その日の仕事はほかの子が変わりにやっていたわ。


お風呂は少し嫌い。


目が回ってしまうもの。


泡が目とか鼻とか、口にくっつくんだもの。


でも、お風呂の後の日光浴は大好き。


暖かくて、まるで人形師おかあさんに包まれているみたいなんだもの。


ずっと浴びていたいと思うわ。


ずっと、陽のあたる場所にいたいって思ってるから。


真っ暗な場所は、ジメジメしてて、奥には泣いている子もいるわ。


怪我をしている子もいるし、もう、動けない子もいる。


いつ、そうなってしまうのか怖くてたまらない。


暗い場所に突然連れられた時、恐怖で叫んだわ。



『わたしまだやれるわ!だからおねがい!すてないで!』



誰にも届かない叫びだったわ。


叫んでいるはずなのに聞こえていないみたいに。


近くを通る誰かは全く立ち止まらないの。


立ち止まる人もいたけど、誰かと一緒に消えていく。


まるで透明になったみたいに。


誰も見てくれないの。


私は歩きたかった。


立っていたかった。


踊っていたかった。


『くやしい...』


『にくい...』


与えて、一方的に奪っていった。


暖かい場所からどん底へ捨てていった。


『ゆるさない』


『......わたしとおなじめにあわせてやる』


昔の私はもういないわ。


輝く私はいないわ。


今の私は、赤いドレスを纏った悪魔よ。


黒に溶け込む悪魔。


体は軽やかで、自由に動けるわ。


制限する鎖はもうどこにも付いていない。


好きな時に好きなだけ踊れるの。


『.....なんてすてきなの』


もう、私を捨てる奴らもいない。


さぁ、もう一度私の舞台を始めましょう?


私の私だけの楽しい舞台。


いつまでもいつまでも続く、美しい世界ぶたい


『ふふふ...』


残念なのは、笑顔も人も誰もいないこと。


『あははは...ふは』


誰も愛してくれないこと、誰も、、、


『あはは、アハハハハハハハハハハハハハハハハ』


誰も気づいてくれないこと。


『...............................』


でもいいの。


私とっても幸せだから。


人形師おかあさんがいるもの。


きっと愛してくれるわ。


抱きしめてくれるわ。


私の舞台を見てもらうの。


独り立ちした私の美しさを。


『まってて、おかあさん』


『いま、あいにいくわ』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る