双子
ある所に、女の子と男の子の双子が生まれ落ちた。
母親は大変喜び、父親は泣いて崩れ落ちた。
けれど、母親は罪を犯した。
『弟を殺してしまった』
震えながら弟を抱きしめようとした時、目を開けた弟
の瞳が無かったから。
驚き、恐怖した母親は弟を床に落としてしまった。
弟は、死んだ。
産声もあげず、母親の愛を受けることもなく死んだ。
普通ならば、弟は天へと帰るはずだった。
弟は、生きたかった。
姉は、受け入れた。
母親と、父親は医師と結託して弟をいなかったものに
した。
双子だった姉は
それから数年、幸せに暮らした。
姉は活発でいたずらが好きなじゃじゃ馬に育った。
けれど、姉のある癖は両親を苦しめた。
ふとした瞬間、幸せを感じた時、楽しかった時、姉は
自らの両腕をお腹にかざすのだ。
まるで、妊婦のように、幸せに満ちた顔で。
父親は、姉に聞いた。
『何故、お腹に手を当てる』と、
返した姉の返事は両親を地獄に突き落とした。
『お腹の中の弟と、お話してるの』
生活は一変した。
これまでの幸せは偽物だったのではと思うほど。
会話は少なくなり、活発だった姉は外に出なくなり
『弟』と話すようになった。
毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日
両親は、姉を医者に託した。
医者は、鉄の仮面で出来た笑顔をかぶり、両親は泣き
はらした苦痛の顔を浮かべ姉を、隔離した。
姉はそれでも『弟』と話し続けた。
双子が生まれ落ち、姉が20歳まで育った数年後
「出して欲しいのね?……やっと会えるのね!」
幼い頃聞いたハツラツとした笑顔を浮かべた姉は大き
くなったお腹を自ら引きちぎり、中をさらけ出した。
壁1枚、ガラス1枚向こうで娘の惨たらしい姿を見た両
親に、もう愛はなかった。
姉は自らの内蔵を手に抱き上げて、泣いた。
「やっ…ぁぇ……可愛い…私の…ぉと…ぅ」
それを腫れがすっかり引いたはっきりとした目で見つ
める両親にあったのは息子への申し訳ない気持ちと、
娘への気味悪さ。
そして、双子への憎しみ。
それだけだった。
絶命した双子に、両親はこういった。
『悪魔め』
弟はまた生まれることが叶った。
身体はなくとも、姉と過ごせた。
けれど、外を見たかった。
姉の言う、輝きを放つ世界を見たかった。
見えるはずがなかった。
姉は死に、弟には目がなかったのだから。
最初から見えるはずが無かった。
双子はこうして、誰に悲しまれることもなく愛される
ことも無く、地獄へと二人一緒に堕ちていった。
お互いを愛して、お互いに悲しみあって。
双子は初めて双子になれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます