合流

「ここに居れば仲間が来るはずだけど……」

 詩織は生徒会室の椅子に座り、怪訝な顔をしていた。

 アテナは仲間と共にと言った。そしてそれはここで待てば現れるという。貴方の座、というのはつまるに生徒会の部屋の事だろう。いつ来るかという約束をした覚えはないが、それでも来るかどうかわからない者を待つのは苦痛だった。もしかしたら来ないかもしれない。

「初めましてー。自分、犬井琴美っていうっす。神子アマデウスの神山詩織さんっすね。どうも!」

 扉を開けてやってきたのは、琴美だ。軽く手をあげて挨拶をする。

「あなた……この学園の生徒じゃないわね」

「あら、わかるんすか? もしかして制服の着かた間違えてる?」

「私は蔵星学園の生徒の顔を全員覚えています。知らない生徒がいればすぐにわかりますので」

「うわ。生徒会長スゲー。ちなみにこの学園何人生徒いるんすか?」

「874人です。……緊急事態でなければ追い出しているところですが」

 驚く琴美。冗談のつもりで聞いた質問もあっさり答えられ、二の句も継げなかった。

「そうね。神話災害クラーデがこの学園に襲い掛かった以上、たとえ邪神の子であったとしても容認せざるを得ないわ」

 ため息をつきながら燕が入ってくる。眼鏡の奥から琴美の方に複雑な視線を向ける。それに応じるように琴美は笑みを浮かべた。

 根負けしたのかこれ以上意味がないことを察したのか、先に視線を外したのは燕だった。詩織の方に向き直る。

「直接会うのは初めてね、生徒会長。いいえ、この場合はアテネの神子と呼ぶべきかしら」

「飯島さん……あなたも誰かの神の子供なの?」

「ええ。私はエジプトのトト神の子。書物や知識の扱いに長けているわ。で、そっちがクトゥルフ神群のシュブ=ニグラスの子」

「くとぅるふ? しゅぶにぐらす?」

 聞きなれない神の名前に首をかしげる詩織。彼女の知識ではトト神も『聞いたことがある。エジプトの本の神様』ぐらいの知識しかない。

「クトゥルフ神群は一般的には邪神と呼ばれているわ」

「失礼っすね。少し前衛的で声を聞いたら頭狂うだけっすよ」

 燕の説明に異論をはさむ琴美。だが邪神と呼ばれていること自体は、大きく否定はしなかった。

「頭が狂う……? あの、信用出来るの?」

「それは大丈夫。親神が協力協定を結んでいるから。現在、ギリシア、ヤマト、エジプト、クトゥルフの四神群が手を結んでいるわ。……仲良くとは言わないけど」

 横目で琴美を見ながら説明する燕。そんな視線を笑顔で受け止める琴美。不安を覚えながらも、詩織はとりあえず納得する。しようとする。

「ところで、あと一人いると聞いたのだけど。確かアマテラスの子が。名前は確か……」

『諏訪明日香』

 燕の説明を継いだのは、神子の誰かではない。明日香本人でもない。

 いつの間にか生徒会室の中にいた黒い鳥だ。三本足を持つ霊鳥、八咫烏と呼ばれるアマテラスの使い。それが口を開く。

「……はー。鳥の神子っすか。あ、どうも。この学校って鳥は生徒になれるんすか?」

「違うわよ。っていうか諏訪さんまたゲームしてるのね!」

「シーンには登場しているけど本人がこの場にはいないロールね。ありだわ」

 挨拶する琴美。怒る詩織。そしてよくわからないことを言う燕。

『お話はこの子を通じて聞くから。気にしないで』

「気にするわよ! どこに居るか言いなさい! 迎えに行くから!」

『げ! 生徒会長マジおこ!? にげるんだよー』

「どうせ教室でしょう。待ってなさい!」

 言って生徒会室を出ていく詩織。残された燕と琴美は、そろって顔を見合わせた。

「元気な生徒会長っすねぇ。お嬢様めいたのを想像していたんすけど」

「隙あらば攫って洗脳しよう、とでも思っていたのかしら?」

「攫うのは頭のいい眼鏡っでもいいんすよ」

 一定の距離を離し、不穏な会話をする二人。今度は琴美の方が先に根負けして視線を逸らす。

「ま、今は神話災害の解決が優先っす。仲良く頼むっすよ」

 琴美が差し出した手を、二秒逡巡して燕は握り返す。敵か否かはさておき、共通の目的を持つことは事実なのだ。

「こっちに来なさい!」

「待ってー。あと一巡だけさせてー」

 明日香の手を引いて生徒会室に戻ってくる詩織。明日香の視線はスマホの方を向いていた。

「なお活力と倹約判定、および買い物などはこの時点で行っている扱いになるわ」

「……なんすかそれ?」

「気にしないで。トトの書に書かれた知識よ」

「まあ、自分は楽しめればいいんすけどね」

(本当に……大丈夫なのですか、アテナ様?)

 スマホゲーム依存。よくわからない事を言うメタはつげん。お祭り好き。

 集まった神子に不安を覚える詩織であった。

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