飯島燕 ~書物が告げる予言

 書物の神、トト。書物だけではなく医学にも長け、エジプト神話の中でも最も多くの侵攻を集めたと言われている。ヒエログリフを生み出したともいわれ、神々の書記を務めたという。

 そしてその子、飯島燕もその才能を引き継いでいた。学業において彼女にかなうものはない。一を聞いて百を知る、と言う誇張が冗談とは思えないほど物覚えがよく、そしてその知識を発展させることに長けていた。

 そして様々な語学を学び、その視野は世界に向けられていた。いずれ世界を回り、様々な本を読んでみたい……。

 などと思っていたのは中学生まである。昨今はインターネットによる電子書籍配信により、家に居ながら様々な書物を見ることができるため、無理して外国に行かなくてもいいやと思っていた。

 確かに電子書籍化しなければ閲覧できない物もあるが、それはそれである。今手に入るだけでも十分満足できる。それになにより――

「……予言?」

 燕は懐から手帳を手にする。なんの変哲もない、それこそ店で売っていそうな手帳だが、そこには幾何学的な文様が描かれていた。書いたのは燕ではない。親神であるトト神だ。


『燕よ。儂の名はトト神。お主の父だ』

 自分の父を名乗ったトト神。燕は突然の告白を、しかしあっさりと受け入れていた。なるほど自分が他人に比べて差があるのはそういう理由か。そう、あっさりと神との血の繋がりを信じる。その状況判断の高さもまた、彼女の才であり神の血のなせる業なのか。

 自分の才能を認めてしまえば、あとはそれを開花させるだけだ。才能に居座るつもりはない。様々な書物を読み、頭を回転させ、そして多くの無理難題に挑むのだ。学校のテストは言うに及ばず、大学の書物やレポート。とにかく思いつく限り『難しそう』と思ったことに目を通し、挑んでいた。

 それら全てを燕は理解し、そして更にどん欲に知識を求めている。

 そして燕の知識欲は神話生物に向き始めていた。この世界に存在する神話の生命体。物質世界を離れた神とは違い、この世界に留まった怪異。それを知ることが燕にとっての目的であり、試練なのだ。

 ゆえに、親神からの連絡は彼女が求める者。ここに書かれていることは、つまり神が神子アマデウスに頼る予言。

「『この学園の七不思議が力を得て、学園が絶界アイランドとなった』……なるほど、概ね理解したわ」

 絶界アイランド。それは神話生物が作り出した領域フィールド。自分自身の物語を再現するために形成された舞台。

 彼らはもしくは元の話に沿った活動を行う。例えばミノタウロスなら、迷宮に籠り生贄を要求する。例えば河童なら水辺に近づく者を引きずったり溺れさせたりする。その為の舞台として世界そのものを変革して作られたのが絶界だ。

 そしてその絶界がこの学園に形成された。一度学園内に入れば、外に出ることは敵わない。皆、怪物の舞台で犠牲になる端役エキストラとなるのだ。

 神はこの世界に干渉できない。だから神の血を受け継ぐアマデウスが怪物を打ち払い、この神話災害クラーデを解決するのだ。

「任せなさい。私の知識にかかれば造作もないことよ。早々に他の神子アマデウスと合流して、解決に向かうわ、お父様」

 手帳を閉じて席を立つ。どこに向かえばいいのかわかっている、とばかりに歩き出す燕。周りから見れば手帳を見てひとりごとを言う変な子だが、それを気にしてはいられない。

「ところで活力増加と倹約判定はいつすればいいのかしら? 全員合流後? いいじゃないこのフェイズでやっても。順番で有利不利が出るからだめ? 面倒ね」

 そして他人どくしゃから見れば第四の壁を突破メタはつげんする変な子だが、それも気にしないのであった。


 智を求め、神秘の世界に足を踏み入れる飯島燕。

 何かを求める者は、常識から外れていくものである。

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