諏訪明日香 ~予言を受ける巫女

 諏訪神社。それは天照大神を奉じる神社として知られていた。

 天岩戸の隠れで有名な神様だが、太陽を神格化した存在でこの国においてもかの神をの伝承は多い。神話に興味がなくとも、その名前ぐらいは聞いたことがあるだろう。それほどに有名な存在だ。

 そして、そのアマテラスの声を聴くことができる巫女の予言が託された。それが諏訪神社の子であると。

 そして生まれた諏訪明日香は、確かにアマテラスと交信できる巫女となった。だがその事実は秘され、予言はその存在毎、闇に葬り去られた。何故なら――


アマテラス『明日香ちゃん、SSRゲット!』

明日香『あ、それカスレアだから。属性と能力が空回りしてるし』

アマテラス『マジwww ちょwww また十二連ガチャ引きなのwww』

明日香『♪(p≧▽)p♪q(▽≦q)♪<ガンバ!』


 明日香はスマートフォンをいじりながら、神と交信していた。

 いや、何を言っているのかさっぱりだが言葉通りの意味である。アスカのスマートフォンに搭載されているコミュニケーションアプリ。そこで繰り返される会話は、まぎれもなく天照大神からの言葉であった。

 当たり前だが、最初はだれもが目を疑った。そして何の冗談かと笑い飛ばすか、子供のいたずらと切って捨てた。

 だがその言葉が様々な災厄を予言し、そして明日香の身の回りに天照大神の使いである八咫烏が降臨し、それでも信じぬ神主には、その神社の奉納物がこぞって消失するなどすれば、流石に信じざるを得なかった。否、白旗あげて認めるしかなかった。

 天岩戸に隠れた神は、現代も引きこもりとして御隠れあそばしておられたという。そんな事実、誰が公表できようか。予言を知る者総出でなかったことにしてしまったという。


アマテラス『久しぶりにコスプレしたいわー。こう見えても昔は色々やったのよ』

明日香『どんなの?』

アマテラス『ミトラスとか。若い男に大人気』

明日香『誰?』

アマテラス『ぐぐれー』


 そんなとりとめのない会話がほとんどだが、明日香はそれで満足だった。年の離れた(千年レベル)友人ができたと思えば楽しくもある。スマホゲームという趣味の共通点もあり、二人の関係は良好だった。

 さて、一般的な明日香の印象は『残念美人』である。整った黒髪を肩まで伸ばし、年齢相応に成長した体。そして整った顔立ち。十人いればひいき目に見ても七人は美人というだろう顔立ちだ。

 だがその印象は彼女に声をかけた後に一八〇度反転する。

「んー。今レベルアップの最中だから後にしてー」

「何? スマホゲーム? 俺もやってるよ、それ。対戦しない?」

 そして数分後、

「勝てるかー! っていうか何時間やってるんだよ!」

「ちっちっち。何百時間よ」

 その業の深さに、声をかけた男たちは怯えて去っていくという。彼女がやっているゲームは両手の指に留まらず、それら一つ一つに手を抜かず挑んでいるのだ。明日香からすれば見た目のスペックは意味を為さない。必要なのはゲームに費やす時間のみ。ゲームの元ネタを知るために動画を見たりはするものの、余暇の時間は全てゲームに費やされていた。

「それでもアマテラスのママには勝てないのよねー。やっぱりニート強し」

 いつか自分も引きこもろう、と固く誓う明日香であった。

 そんな明日香の決意を削るように、アマテラスからのメッセージがスマホに入ってくる。


アマテラス『母より強い娘などいない!』

明日香『盗聴カコワルイ!』

アマテラス『かわいい明日香ちゃんはいつだって見ていたいの。そんな明日香ちゃんに朗報でーす! 貴方の学校が神話災害クラーデに襲われます。っていうかもう襲われた。てへぺろ』

明日香『(;゚Д゚)(゚Д゚;(゚Д゚;)ナ、ナンダッテー!!』

アマテラス『なもんで解決してね。終わるまで外に出れないし。七不思議が関係しているみたい』

明日香『えー。今日はイベントあるのに! ママにまた差をつけられるッ。つД`)・゚・。・゚゚・*:.。』

アマテラス『あ。災害解除するまで時間軸止まってるから大丈夫。ザ・世界!』

明日香『あれ? じゃあここでレベルアップすればいいんじゃね?』

アマテラス『無理無理。時間自体がなかったことになるから』

明日香『(´;ω;`)』


 アマテラスの予言を受けて、神の子明日香は動き出――

「んー。無駄と分かっているけどゲームはやめられないのよねー」

 動き出すまで、もう少しかかりそうだった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る