『本当の』欠けた七不思議 ~ブレイク・ザ・ミラー

 神子アマデウス達は各自散開し、それぞれの場所に走る。


「仲間に手は出させないわ」

 詩織は『首切り枝垂れ桜』の前に。


「閉じ込められてる人はあたしが開放するから」

 明日香は『プールから現れる白い手』の前に。


「しゃーねーっすね。アテナっ子が脱ぎたくないって怒るから自分が犠牲になるっす」

 琴美が『踊る人体模型』の前に。


「じゃあみんな、任せたから」

 燕は欄外マジナリアで一歩引いてうち漏らした術式を解除しようと待機する。


「逢魔が時まであと少し。七不思議わたしたちは消えないわ」

 口を開くのは『鏡の中の自分自身ドッペルゲンガー』だ。それは怪物モンスター化した七不思議の統括。

 最初に動くのは――明日香。目の前の『白い手』を無視して、奥にある大鏡を見る。正確には、その奥に埋め込まれてしまった人を。物理的に霊的に遮られて、その裏側を見ることは敵わない。だからその壁を壊そうと強く射貫く。

 霊的な力を体中に循環させる。それはアマテラスの子として受け継いだ太陽の力。暗闇に捕らわれた不幸な子を照らす日の光。それは明日香の意志。両手を合わせて、印を切る。そして腕を一振りし、霊力を解き放つ。

 不祥事を誤魔化すように建てられた鏡如きが、天の輝きに敵うものか。鏡は砕け散り、そこに埋め込まれた骸骨をさらけだす。制服から、十数年前の学園生徒だというのが分かった。

 勝利条件の一つを満たし、喜ぶ神子達。だがその神子達に『白い手』が迫る。体に纏わりつき、心に絶望を植え込んでくる。

「八咫烏の助け霊撃1がなくてもこれぐらい――」

「諏訪さん、これはスルーして」

『白い手』を解除しようとする明日香を制する燕。絶望に包まれた神子達は、神々の恩恵ギフトを使用するのに幾分かの闇の力黒インガが必要になる。だが、

「具体的には運命の輪に黒の力は十分に溜まっているわ。四色のインガを使って無理に解除する必要はない……ああ、そうね。ここはこういうべきかしら――この程度の『絶望』に屈する私達じゃないわ」

「ようやくわかりやすいこと言うようになったっすね、トトっ子」

 燕の言葉に琴美が答え、巨大な注射器を振りかざす。目の前には『踊る人体模型』。だがそれを無視して自分自身ドッペルゲンガーを見た。

「あら。私を殴るのかしら、。その傷を写し返してあげるわよ」

「いやーん。痛くしないで欲しいっす」

 琴美がプールに飛び込むように床に向かって倒れ込む。そこにある『角』に頭をぶつけ――る寸前にその姿が消え去った。そこに居たすべての人間が驚きの表情を浮かべる。そして、天井の角から琴美が現れ、自分自身ドッペルゲンガーに強襲をかける

「――ま、死んだ命は弔わないといけないんすよ。なのでとっとと倒れてほしいっす」

 生命を司る親神シュブ=ニグラス権能オーソリティを借りて、身体能力を増した琴美。如何にドッペルゲンガーが心を読もうとも、体がついていかなければ避けられるものではない。注射器は相手の芯を捕らえクリティカル、相手を深く傷つける。

 無理やり強化した琴美の体はその反動を受ける。その上で傷を写された。痛みが走る体でにへー、無理やり笑う琴美。

「犬井さん、大丈夫!」

「問題ねーっす。それよりアテナっ子。桜は任せるっすよ!」

 動き始める『首吊り枝垂れ桜』。だがそれより早く詩織が動く。誰もがその槍を『枝垂れ桜』に突き刺してその動きを封じるものと思っていた。それが最善の手だと。

 だが、詩織の槍は『鏡の中の自分自身』に向く。直接ドッペルゲンガーを叩いて鎮圧できれば、他の七不思議も動きを止めるという目論見か。確かにそれは間違いではない。鏡の中は晒された。あとは七不思議を統括する『彼女』を倒せば、全てのカタはつく。

「ここであなたを攻撃することが、戦略上の最善手よ!」

 だが――そう簡単に倒されるドッペルゲンガーではない。

「見誤ったようね、。『神剣ギフト』を込めた一撃は確かに脅威だったけど、それで倒れるではないわ」

 鋭い一撃を受け、よろめく詩織の姿をした鏡像。読みよりも速く、そして強い一撃。確かに恐ろしくあるが、ここで仕留めることができればそれでいい。そしてその為の一手はゆっくりと動き出している。

『首吊り枝垂れ桜』。それは春になると自殺者を誘うと言われた校庭に咲く枝垂れ桜。あまりの人間がそこで自殺したため切り倒され、そして切り倒した業者も自ら首を吊ったという。いつの時代に存在して、切り倒される前はどこにあったのか。それさえもわからない『死』を告げる脅威。

 桜の枝から伸びるロープが、詩織の首にかかる。絞首の為に先端が輪となった古ぼけたロープ。

「ええ。それもわかっているわ」

 迫る『死』の脅威に、冷静さを失うことなく詩織が告げた。

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