決戦フェイズ

『終わらない階段』 ~大鏡へと至る道

 七不思議の一つ『終わらない階段』。

 2階と3階の間にある階段は、どれだけ上っても上にたどり着くことはない。そしてどれだけ下っても、元の階に戻ることはない。そんな怪談だ。

 そしてその階段を上りきらない限りは、目的の大鏡にはたどり着けない。ここは怪物モンスターの領域たる絶界アイランド。怪物の物語エピソードに沿ってさえいれば、空間や常識を歪めることは造作もない事なのだ。

 その階段の前に四人の神子アマデウスが立つ。

「つまり移動判定ね。諏訪さんの【真実】から察してたけど」

 腕を組み頷く燕。よくわからない言動メタ発言に慣れたのか、他の三人は中途半端な笑顔を作り、スルーする。

 ともあれ明日香の親神であるアマテラスから賜った情報によれば、この階段を上りきる方法は一つしかない。

「この『終わらない階段』は一定のリズムに合わせて階段を上り下りしないといけないのよね?」

「そうだよー。そしてそのリズムはママから教えてもらったコレ」

 詩織の言葉に、スマホを高々に掲げる明日香。そのリズムはコピーされて全員に伝わっている。問題は……。

「諏訪さんダンスとか得意?」

「てへー。生徒会長は?」

「……得意とは言えないわね」

 詩織と明日香が自信なさげに目をそらした。音を聞くとつい頭で思考してしまい、次の動作が遅れる詩織。単純に体を動かすのが得意ではない明日香。共にこういった動作は得意ではなかった。

「覚えた通りに体を動かすだけでしょう? 何がわからないのかしら」

「体動かすのは得意っすよー」

 逆にこれぐらい余裕と言いたげな燕と琴美である。記憶力の優れる燕からすれば、むしろ何がわからないのかがわからないと言いたげである。

「あー……苦手なら親神さんに頼んで『神々の乗り物』に乗せてもらうって手があるんすが……」

 不安がる二人に琴美がそんな提案をした。各神群にはその神話に応じた『乗り物』がある。親神を通じてそれを借りることで、こういった時空の歪んだ空間を飛び越えることができるのだ。だが、

「借りるときお金取るんすよね、かーちゃん」

「あたしのママもお金取るの。ガチャの資金にするって」

「アテナ様も兵站管理そういうところはしっかりしているから」

「世知辛いわね……。一応言うけど、私は神貨コイン出す気はないから」

 四人の神子達はそろってため息をついた。『神々の乗り物』に乗る案は、すぐに廃案となる。

 なお燕が神貨を出さないのは、彼女の恩恵ギフトがお金を捧げる類の物だからである。お金がなくなれば、この先に待つ七不思議との戦いで満足にサポートができなくなるのだ。それゆえの資金貸し出し拒否である。それは他の神子も理解していた。

「ああもう、どうしてこんなに神貨がないのよ! 大体諏訪さんはこういう事があるってわかってたんでしょう!」

 どうしようもない資金不足。そんな現状を嘆くように詩織が明日香を指さし、叫んだ。殆ど八つ当たりである。

「だってママお金くれなかったし……ガチャ代に溶けたって」

「自分、霊薬とごちそう買ったんで。そういうアテナっ子は結構無駄遣いしてるっすね。主武器の槍があるのに盾なんか買って」

「う……アテナ様って言えば槍と盾じゃない。だから……その……形から入るって重要だと思ったのよ」

 琴美に指摘されて鼻白む詩織。うんうんと頷く燕。

「衝動買いしたのね。ああ、私は無駄遣いしないわよ。全てお父様に捧げてるから」

「このファザコン眼鏡」

「おとうさまらぶー」

「……貴方達、支援要らないのかしら。『絶望の闇』マイナス2修正を払えるのは私だけなのよ」

「わー、冗談ですー」「冗談すよー」

 茶々を入れる琴美と明日香の言葉に怒りで拳を握る燕。慌ててさすがトト様、と手を合わせて謝る明日香と琴美。

 口論じゃれあいはこれで終わり、とばかりに燕が手を叩く。ない物はない。それはどうしようもないのだ。これを覆す策も恩恵も、今はない。

「仕方ないわね。各自注意して上りましょう。可能な限りサポートはするから」

 燕の言葉に頷き、神子達は階段に足を踏み入れた。

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