諏訪明日香 ~穢れを祓う巫女
「この学校の『欠けた』不思議は『鏡の中の
琴美が語る【真実】は、この学校にある大鏡にまつわる話だった。
「三階の廊下奥にある大鏡。あそこからドッペルゲンガーは現れるんすが……そう、あの鏡にはある噂があるんすよ」
「鏡の裏側……つまり壁の中に生徒が一人埋められた、と言う噂が昔あったみたい」
おどろおどろしく話す琴美を制して、燕がさらりと告げた。恨めしそうに睨む琴美を無視するように、燕は話を続ける。
「生徒を殴って殺してしまった先生が、その秘密を守るために補修工事中だった三階の壁に死体を埋めて、そこに鏡を設置した……そういう噂よ」
「ところが殺したと思った生徒は実は生きていて、夜になるたびにうめき声をあげていたんす。『助けて……』『暗い。お腹空いた……』『ここから出して……』……そう、それはまるで鏡の中から声が聞こえてくるように」
強引に怪談口調で喋る琴美。もっとも、それで恐れをなす
「……まあ、犬井さんの親神が言ったんだから嘘じゃないんでしょうね。その話自体は」
若干不快を表情に出して詩織が言う。普段の詩織が聞いたならくだらないと一蹴するが、親神が告げた【予言】なら嘘はない。そういう事件が実際に起きたのは、事実なのだ。だから眉を顰めていた。
「うんうん。つまり、その鏡の裏に居る人……それが『本当の』欠けた七不思議で、今回どうにかしないといけない
「そうっす。その先生の権力で噂は排除され、別の噂に書き換えられちったんすよ。で、どうにかするには鏡叩き割ってその人を助け出さないといけないんす」
「当然『鏡の中の自分自身』を始めとした他の七不思議がその邪魔をしてくる。それを排除するのも条件ね」
明日香の言葉に、琴美と燕が補足しながら同意する。
「つまりやらなければならないことは『鏡を壊して中の人を助け』て『七不思議を倒す』ことね」
「そうっす。鏡の中の人を解放しないと、ドッペルゲンガーは物語としてオチが付かずに永遠に生まれ続けるんす。なのでこの
詩織の問いに頷く琴美。
『ここでわたしが消えても、解明されないかぎりはわたしは消えない』……ドッペルゲンガーが言った言葉だ。成程そういう意味かと詩織は納得する。
ともあれやるべきことは決まった。この会議はこれで終わり、
「とりあえず戦うまでまだ時間あるよね。ちょっとやりたいことがあるのー」
明日香が手をあげて、自分のやりたいことを告げた。
白衣に緋袴、千早と呼ばれる貫頭衣。髪の毛を和紙で作られた丈長でまとめあげる。額には花を模した天冠をつけていた。
巫女装束。明日香が着ているのは、神社で女性が神儀で身に纏う儀式的な衣装だった。
「……すげぇ、コスプレ巫女服じゃなくてガチ巫女装束」
琴美の軽口をもってしても、それ以上のからかいはできなかった。それほどに明日香は巫女装束を着こなしている。
「あたし天照大神の神社の娘なんだから。着こなせて当然よ」
「学校に制服以外の衣装を持ち込んでいることは、生徒会長として一言いいたいわね」
非常事態だからこれ以上は言わないけど、と詩織は目を閉じた。
「それよりも諏訪さんは何をしたいのかしら?」
「うん。場の穢れを払いたくて……ほら、戦いの前に『絶望の闇』を軽減できればいいかなって」
燕の問いに、明日香は玉串を握りしめて応える。怪物との戦いにおいて、
「……そりゃそうっすけど。どうしたんすかアマテラっ子。急にやる気出して」
「今の話を聞いたら居てもたってもいられなくて。……誰にも相手されずにずっと一人だなんて、辛いじゃない」
諏訪明日香は、アマテラスの声が聞こえると予言された子だ。だが、その予言は予想を大きく裏切る形で実現した。落胆する周りの様子を明日香は覚えている。そして全てなかったことにされ、誰にも相手されなくなる孤独感。
親族に疎まれて、なかったことにされた現実。それは明日香をスマホ依存に移行させた要因とも言えよう。明日香はそういった逃げ道があった。だが鏡に閉じ込められた子は、それすらできない。
「だから、絶対助けなきゃ。その為に、出来ることをするの」
祓い給え、清め給え。
明日香は舞い、謡う。赤、青、緑、白の四色の
全ての闇が払えずとも、その光は確かに神子達を照らしていた。
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