冒険フェイズ ~第二サイクル

犬井琴美 ~勝利はお菓子とジュースの味

 生徒会室のテーブルの上には大量のお菓子。

 そして数本の色とりどりのジュース。色から察するにオレンジジュースにアップルジュースにグレープジュースにウーロン茶にコーラだろうか。

 まるで円卓を囲むようにテーブルの四方に神子アマデウスは座っていた。奥の上座に詩織が座り、時計回りに明日香、燕、そして琴美が座っている。

 そんな状況の中、最初に口を開いたのは生真面目が服を着ている詩織だった。

「……こんなことしていていいのかしら……」


 詩織の心配ももっともである。ここは学校の一室に見えるが、絶界アイランドの中。言わば怪物モンスターの領域内なのだ。

 確かにこの絶界を形成する七不思議を撃退した。それにより敵の手の内の一部が分かったことは大きい。

 だが、敵陣の中で悠長にお菓子パーティをしていいのかと言われると、それは……。

「問題ないわ」

 断言したのは燕である。豆系のスナック菓子を人差し指で挟み、口に運ぶ。それを噛み砕き、飲み込んでから言葉をつづける。

「『鏡の中の自分自身ドッペルゲンガー』は自分の物語に従ってこの学校の生徒や先生を鏡の中に取り込もうとするわ。でもその怪談には限定条件がある」

「確か……『逢魔が時』だっけ?」

 燕の説明に言葉を挟んだのは明日香だ。こう見えても神社の娘。逢魔が時の概念は頭の中にあった。

「昼と夜の間にある狭間の時間。それは人と妖の時間が入れ替わる。故に人が妖の世界に紛れ込みかねない。故に退魔師よ逢魔が時に駆けよ!」

「なんすかそれ?」

「『アヤカシバスターズ』の出だしだよ。パズルゲーム」

 ――前言撤回。どうやらそういうスマホゲームがあるらしい。

「件としては正しいわ。つまりタイムリミットは夕方。それまではこの学園自体は安全なのよ」

「じゃあさっき襲い掛かってきたのは?」

 詩織の問いに燕は動じることなく答える。

「余計なことを調べた相手への攻撃ね。端的に言えば、【真実】を見たら戦闘が発生するとかがあったんじゃない?」

「……ふうん?」

 前半はわかるが、後半はわからない。そんな顔で詩織は頷く。相変わらず端的な説明の方がわからない。

「とりあえず時間があることは納得したわ。でも、何故御菓子パーティなのよ!」

「えー。アテナっ子はスナック菓子嫌いっすか。チョコ菓子とか持ってないんで勘弁してほしいっす」

 オレンジジュースを紙コップに入れて、口に含む琴美。自分犬なんでチョコはちょっと……と断りを入れる。

「違うわよ! インターバルは確かに重要だわ。だけど緊張感がなさすぎなのよ!」

「んー……じゃあ例えばどんなのがいいんすか?」

「お茶会とか」

 琴美に言われて、さらりと返す詩織。うわー、この人いい所のお嬢様だったー、と若干引く琴美。

「へー。生徒会長、お茶とかするんだ。せんのりきゅー?」

「嗜み程度よ。さすがに茶道部の人ほどうまく点てれないけど」

「流石、噂にたがわぬ完璧生徒会長。もしかして日本舞踊とか社交ダンスとかもできるのかしら?」

「? できるけどどうして知ってるの?」

「すげー。アテナっ子すげー」

 わいのわいのと会話が弾む神子達。話題は少しずつどうでもいい日常の話になっていく。

「じゃあ、下駄箱開けたら大量のラブレターがどさっと落ちてくる、とかもあるんじゃないっすか?」

「ありそうー。しかも男女両方からもらってるとか―」

「……個人情報があるからノーコメントよ」

「その返答自体が物語ってるも同然よ。お父様に聞くまでもないわ」

 冷静な燕の指摘に渋面で顔を背ける詩織。お腹を押さえて笑いをこらえる琴美と明日香。

 絶界の中であるはずなのに、会話に緊張感はない。

 それは、どこにでもある仲のいい女子学生の日常の会話。戦いのさなかであることも、神子であることも関係ない。ただの青春の一ページ――



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る