マスターシーン ~戦闘

欠けた最後の七不思議 ~その脅威

「あら。やりあうつもりなのね。いいわ、相手してあげる」

 余裕を含んだ笑み。詩織に似た姿を取っていた怪物モンスターは、瞬き一つする間に明日香の姿を形取り、そして燕、琴美と姿を変えていく。

「ちがうー。わたしそんなに髪の毛ボサボサじゃないよー!」

「残念すけど、瓜二つっすよアマテラっ子。見事な変身術っすね」

 自身を模した怪物に異論を挟む明日香。首を振ってその異論を否定する琴美。だが瞳は油断なく敵を見ていた。

「ええ。しかも与えた傷の一部をこちらに『写す』ことができるみたい」

「流石鏡の怪物ね。しかも七不思議の一部を使役しているわ。『プールから現れる白い手』『赤マントの怪人』『瞳が光るベートーベンの絵』……」

 詩織と燕が冷静に相手の能力を見やる。相手の姿を映す鏡の怪物、ドッペルゲンガー。それは相手の心を読む攻撃にマイナス修正がつくだけではなく、自分が受けた傷の一部を相手に『写す』本体攻撃時、相手に重傷2の変調を与えることができる。

 神子アマデウスと怪物の戦いは、常人から見れば刹那の時間で行われる。相談の余裕はない。目線でやり取りして陣形を汲むしかないのだが、それを行うにしても元となる情報が必要となる。

 故に、敵の攻撃手段きょういを調べる必要がある。その情報を元に神子達は戦術を練るのだ。だがその偵察は怪物にばれればそれで終わる。下手をすれば反撃を喰らう可能性もある。慎重にやらねばならない。

「『白い手』に掴まれたら、心に虚無感絶望の変調が生まれるわ。四人纏めて狙ってくるから気を付けて」

 偵察の口火を切ったのは燕だ。手帳を取り出し、トトに問いかける。親神と彼女の知性の高さは自他ともに認めるところがある。それゆえの一番手。最も危険性が高いと思われる七不思議きょういを見抜き、そして的確に正体を暴いていく。

「八咫烏、いっけー! ……げ、あいつに切られるとビビりそう……!」

 そして明日香が八咫烏に命じて『赤マント』の能力を探る。血を求める殺戮の怪人。そのマントの赤は血の赤。その剣は空間に広がり範囲攻撃、そして斬られた者は竦みあがる臆病2の変調だろう。

「アテナ様、御加護を……!」

 詩織が『瞳が光るベートーベンの絵』を調べる。芸術を司るアテナの恩恵を受け、その絵が持つ呪いを知る。その瞳と流れる音楽。それを聞いた人間全ては激しく動揺し、思わぬ行動をとってしまうファンブル表を振る

心を読む攻撃マイナス修正とか……全部広範囲の脅威とか……この運命GMを呪いたくなるわ」

 燕が何かを恨むように拳を握る。バランス考えろ、とぶつぶつと呟いていた。

「まー、怪物に慈悲なんてないっすから」

 琴美がそんな燕の肩を叩く。言葉の意味は当然理解していないが、もう燕の言動には慣れたとばかりに。

「愚痴ってる暇はないわ。行くわよ!」

「あらほらさっさー」

 詩織の号令と共に明日香が手をあげて動き出す。それぞれが思いのままに動き出し――


「やほー、生徒会長よろしく!」

「ええ、って諏訪さんもこっちに来たの!?」

『プールから現れる白い手』の前には詩織と明日香が。


「やふー、赤マントさん。よろしくっす」

『赤マントの怪人』の前には琴美が。


「戦闘は苦手だから、サポートに回らせてもらうわ」

 戦闘圏内から離れた欄外マジネリアに燕が立つ。


(拙いわね。『ベートーベン』を押さえる相手がいない。あの光と音楽は誰かが押さえると思っていたのに)

 相談する時間がない四人の神子は、皆同じ思いを抱いていた。即興のチームであるが故の弱点だが、相談する余裕がない以上は仕方のないことだ。

 だが、悔いている余裕はない。今できる最善をこなすのみ。神子達は気を取り直して七不思議に挑む。

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