諏訪明日香 ~スマホ奪還作戦

 諏訪明日香は自他共に求めるスマートフォン依存である。

 これは決して彼女の生い立ちや境遇に関係はない。アマテラスと交信ができることも、何ら関係ない。理由を問われれば『なんとなくハマった』としか言えないのだ。

 これをおかしいと笑う人間は、一度自分の生活を見直した方がいい。現在社会において人間は何かしらの文明に依存している。スマートフォン? 携帯電話? パソコン? テレビ? ラジオ? 何かしらのツールから情報を得て、そこに全幅――洗脳ともいえるほどの信頼を置いている。そこから得た情報を疑いもせず受け入れ、生活の基盤としているのだ。

 閑話休題。話題は明日香に移る。スマホ依存の明日香は先ほど詩織にスマートフォンを取り上げられたのだ。曰く、

『もう! 諏訪さんも真面目にやりなさい! しばらくゲーム禁止!』

 神話災害クラーデに対して何の行動も起こそうとせず、ゲームに勤しんでいる明日香に怒りを感じ、詩織はスマホを取り上げたのだ。

「かくして生徒会長の横暴に立ち上がるべく、神子アマデウスは立ち上がったのである」

「そんな話じゃないっすけどねー」

 指一本たてて言う明日香に、琴美が肩をすくめる。なにをしているかと言うと、明日香に呼ばれたのだ。

「アテナっ子も鬼じゃないから、謝れば返してくれるんじゃないっすか?」

「甘い! 『カカオ』のストロベリー雪ダルマパフェハチミツコート並に甘いわ、ことみん!」

「ことみん?」

 自分を指さし問いかける琴美。うむり、と頷き拳を握って力説する。

「あの生徒会長は鋼鉄の処女と呼ばれた無敵の生徒会長。『黒髪ロング』『隠れ巨乳』『ツリ目』と三種の神器を兼ね備えた完璧超人!」

「生徒会長関係あるんすか? それ」

 言いながら琴美は生徒会室内のロッカーを開ける。清掃用具しか入ってなかった。

「あるわ。ザ・生徒会長と言ってもいい神山ちんのガードは硬いのよ。ジャンピング土下座程度じゃ許してもらえない。なら――奪い返すのみ!」

 言いながら明日香は八咫烏に命じてロッカーの上を見てもらう。何もなかった。

「で、アテナっ子のカバンを探しているんすね」

 言いながら琴美は机の下を見る。何もなかった。

「あの真面目が制服着て歩いている生徒会長が、鞄を持ち歩いていないわけがないわ。きっとどこかにある。そこに私のスマホがあるのよ! どう、ことみん。この推理。ホーなんとかシャームズさんもびっくりじゃない?」

「シャーロック・ホームズっすか? それが言えないことにビックリっす」

 琴美は呆れるように言いながら嗅覚で鞄を探そうとする。詩織の匂いはよく覚えていない上に、この生徒会室は詩織がよく使っている部屋だ。似た匂いだらけでよくわからない。 

「そんな昔の人の話なんてどうでもいいの! とにかく今の私にはスマホがいるの。無いと死ぬの。レベルアップしないと落ち着かないの」

「はあ。正直わかんねーんすけど、一言だけいいっすか」

「何? 代わりのスマホじゃダメとか言わないでね。あれは数多の戦いを乗り越えてきた私の相棒。いわばマイソウル! 鋼鉄面美な神山ちんに捕らわれたお姫様を救い出さなくては――」

「アテナっ子、さっきから入り口で腕組んでこっちの方見てるっすよ」

「なん……だと……!」

 驚く明日香の視線の先には、普段のツリ目をさらに鋭くした詩織がいた。

「だ・れ・が・鋼鉄面美よ!」

「待って! これは罠、そうよコーメーの罠よ! 走るチュータツを死せるコーメーが!」

「素直に謝れば返してあげようって思ってたのに! しばらく反省してなさい!」

「ああん、違うの。本当にスマホがこの神話災害に役立つの!」

「……どういうこと?」「っすか?」

 明日香の言葉に聞き返す詩織と琴美。

「あのスマホの中にお母さんが用意したMP3があって、七不思議の『終わらない階段』はその音楽に合わせて進まないと、ずっと上り続けてしまうんだって。だからスマホが必要なの!」

「――なるほど。それがあなたの親神アマテラスから伝えられた【真実】ね」

 いつから話を聞いていたのか、燕が明日香の話を聞いて頷く。親神が告げる【予言】とは別に、機が来るトリガーをみたすまで秘すべき情報。それが【真実】だ。

「それなら早く言ってくれればよかったのに」

「だって……お母さんからは信用出来る相手でないと喋っちゃだめって言われたし……」

 呆れるように言う詩織。口を尖らせて詩織から目を逸らす明日香。

「そういうことならスマホは返してあげるわ。それはそれとして」

「ありが……え? あれ? 何か怒ってる? 笑顔が怖いんだけど……」

「誰が鋼鉄の処女なのかしら? 誰がそんなこと言ったか教えてほしいわね」

「ひぃ! まさか最初から聞いてたの!? いやぁ、離してぇ……!」

 明日香の腕をつかみ、笑顔で尋ねる詩織。泣き叫ぶ明日香は逃れようとするが、力ではかなわないのか逃れることはできない。


 そんな様子を琴美と燕は蚊帳の外とばかりに落ち着いて見ていた。いろいろ騒いでいるが、それは何処にでもある女子高生のじゃれあいだ。

「なんつーか……アテナっ子、面倒見いいっすね」

「そうね。あれはあれで仲がいいみたい」

「いつか駄目な男に引っかかりそうな感じっす」

「……そうね。神山さんには悪いけど否定できないわ」

 無敵の生徒会長にも、弱点があったようだ。 

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