悪魔の骨

 むかしむかし、わたしの住むこの町は悪魔に支配されていました。

「あア、人ゲンを見たノはナン年ぶりカ」

 けれど一人の偉大な魔法使いが、悪魔を封印することに成功したのです。

「オ前が我をカイ放しタのだな」

 悪魔は小さな箱の中に閉じ込められ、その箱は魔法使いの家に保管されました。長い年月が経過して、魔法使いがその命を終えても、その子供が孫がひ孫が、箱を見張り続けていたのでした。今その重大な役目を担っているのは、私の父でありました。

 そうして父の娘である私が、その箱を今開けたのでした。

「褒ビにお前ノネガいを叶エてやロう しかシ」

 けれど長い年月が経ち、悪魔はすっかり変わり果てた姿となっていました。

 伝えられているような、立派な角も真っ黒な皮膚も巨大な翼も、そうであったのだろうなと思えるほどの形だけは残しながら、ただ殆ど骨ばかりになっているのでした。

「ワれの力は衰えテしまッた」

 骨ばかりになった悪魔の、カタコト、とも違う独特な喋り方は、元々の特徴なのか年月によるものなのかはわかりません。

「ドうだ 願イを言ッてミろ カナえラれるモノならばナンデモ」

「ああ、気にすることないの」

 私は悪魔に触れました。硬くゴツゴツしていて、ああ、なんて立派な骨なのでしょう。流石は悪魔です。

「衰えてなんかいない。あなた、やっぱり素敵だわ。あなたが欲しかったの。私の願いは、あなた。あなたをちょうだい」

 悪魔は言いました。変ワったニンげンだ。変わっているのはあなたの話し方よと、私は笑いました。

 私はすぐに悪魔を父に見せました。どう、私が思っていたよりずっと立派だったわよ。

 父はとても驚いた顔をしました。

 父は私に言うのでした。なんだそれ、加工の手間が少なそうでいいな。

 数時間後、悪魔は鍋の中にいました。

「アアアアアアア」

 脱サラした父が始めたラーメン屋は暫く客足がさっぱりでしたが、新しく始めた悪魔骨スープが評判を呼び、少しずつ経営も安定してきました。街ひとつ支配した悪魔はやっぱりすごいです。良い味を出してくれます。

「ニンゲンコワイ」

 悪魔だから、普通の生物と違うのでしょう。何度煮込んでも味が落ちないので、今後もお世話になろうと思います。

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