大津笹弥の生い立ち。 

俺は生まれたときから恵まれた環境にいた。

親は金持ちでなに不自由なく暮らす普通の中学生だった。

ごく普通に学校には行っていたし、ごく普通に友達もいた。

普通の人とは大差ない生活をしていた。

両親は共働きでほとんど会話をしなければ、ほとんど顔を合わせることもない。

特に父親はエリートだった。

政治家であることで顔が知れ渡り、いわゆる有名人。

その息子である俺も多少は注目を浴びたが正直言っていい迷惑だ。

子供とは複雑だ。

生まれたときから親というのがいて、家庭によっては厳しく躾けられ親の言うことを聞く。

ペットかよ。

こう言ってる俺も最初は両親から厳しくされていたが、俺が変だったのかいつの日からか何も言われなくなった。

俺としては気が楽になりむしろありがたかった。


「おはよう!」


「おはよう」


友達の新井結あらいゆい

学校ではだいたい新井と一緒だ。

一緒というか正確には朝井がしつこく張り付いてくる。

移動教室も一人で食べたいお昼ご飯も気が付けば隣にいる。

まあ、嫌いではない。


「大津笹弥さん! 今日もいつもと変わらず学校へ登校ですか? えらいですねえ!」


変な声でからかってきた。


「いいから。ほら、授業始まるぞ」


それからその日の授業を受けた。

これがなかなかおもしろいことでつまらない。

勉強というのはできなくはない。

だがいざやろうとするとまったくおもしろくなく、ただ先生の話しを聞くだけ。

国語や数学。歴史に化学。

どれも国が定めた教育を大人が子供に教える。

教わったものは確かに役立つこともある。

だがすべてが役に立つわけじゃない。

だいたいの大人はやることに意味があるとか誤魔化しやボケを入れて教育する。

子供って…なんなんだろうな。


家に帰ると珍しく両親がいた。

特に話すことなく俺は自分の部屋に閉じこもってベッドに横になりただ時間が過ぎていく。

玄関が開く音が聞こえた。

両親が仕事にいったのだろう。

部屋をでてリビングに行く。

するとテーブルの上に置手紙があった。


『笹弥へ

そろそろやりたいことは見つかったか?

今までなにもしてこなかったがお前にも考えがあると思う。

これはお前の通帳だ。

好きに使いなさい』


置手紙の下に通帳があった。

中をみてみる。

あきらかに中学生に渡す金額ではない。

そこらの社長以上にお金を保有することになった。

この日は気がつかないうちに寝てしまっていた。


そしてまた学校に行く。

この繰り返し。

俺はあまり話すタイプではないため友達は少ない。

新井と柴田くらいか。

柴田というのは…。


「おっす! 今日も冴えない顔してんねー。たまには笑ったらどうだ?」


「意味もなく笑っていたらキモいだろ」


「そりゃそうだ!」


コイツが柴田拓しばたたく

なんというか、俺の周りには変なやつしかいない。

俺も変だとは思うが新井と柴田のほうが変だろう。

俺にしつこく構ってくる時点でそうだ。

悪い気はしないから。

むしろうれしい。


「ちょっと! 私の笹弥とらないでいただけますー?」


「俺はお前のじゃない。そして勘違いされるような言い方はやめろ」


「っけ! 俺だけ除け者にするつもりだな? そうはいかない!」


まためんどうなことを始めるつもりだ。

それにしてもこの2人、仲がいいな。

そのはっちゃけ感を俺は欲しているのかもしれない。

そして喧嘩と言う名のじゃれ合いがはじまる。


「あんた最近知り合ったっていうのに馴れ馴れしいのよ! ちょっとは自重しなさい?」


それは新井、自分のことかな?

見事なブーメランになってますね。

自己紹介ですか?


「うっせえ! それより新井! お前こそ最近太ったんじゃないか? 前よりお腹が出てる気がするぞー?」


「そんなことない!」


「ある!」


「ない!」


「ある!」


こいつらにも困ったもんだ。

一度こうなるとしばらくこの状態が続く。

あきませんね、君たち。


授業がはじまり教室が静かになる。

このとき変なことを考えていた。

…大人がいなくなったらどうなるんだろ?

大変なんて以上にありえない話しだが俺は想像する。

教科書をみながら子供に勉強をさせる先生を見た。

静かな教室の中喋っている先生。

だがこいつが消えたらどうなるか。

頭の中で想像して先生を消してみる。

…静かだ。

聞こえてくるのは自然の音。

ただうるさいものがなくてとても居心地がいい。

こんな世界に生まれたかった。

なにもなく自由に生きられる世界。

誰からも縛られることなく、好き勝手に生きられる。

そんな世界が俺はあってもいいと思った。

いや、欲しい。

そう思ってしまった。


すると先生が黒板にチョークを当てチョークが折れる音で俺は自分の世界から戻ってきた。


俺は…大人のいない世界を作りたい!

子供だけの縛りのない世界を…!


俺は授業中にも関わらず、そのことだけで頭がいっぱいだった。

まずなにをすればいい?

なにをしたら子供だけになる?

考えろ…考えろ…。


「おーい。笹弥ー? 授業おわったよー?」


「…お、おう」


考えはじめたら止まらなくなっていた。

それしか考えられないほどに。

今までにないくらい必死だった。


「なぁ。なにかを実現するためにはなにが必要だと思う?」


「笹弥から話すなんて…! これは事件のニオイがするね…。そうね…。しかないでしょ!? だって実現ってことはなにかするわけでしょ? だったら他の人だってそれを目指してくるかもしれないじゃない? 努力して勝ち取らないと!」


「バカか。勝ち取るにしても努力できるがないとなにも始まらないぞ。それには金がかかるからやってみたくてもできないやつが大勢いるんだ」


そうか。

幸いにも金ならある。

これでなんとかできそうだぞ。


「お前ら、助かったぞ」


「え? なに? 今日はパーティーでもしちゃう?」


「しないだろ…。ま、なにかあったらまた聞いてくれ。相談くらいなら聞けるしな」


それから俺は環境についてどうすればいいのか考えた。

要するに場所だ。

子供しかいない場所を作りたい。

それなら大陸に繋がっていない島国が適しているか。

島国なら出入りが簡単にはできないし見つかりにくくていいだろう。

そうと決まれば無人島の購入か?

でもそれだと地図に乗っていてダメだ。

だとすると…造るしかない。

人工島の開発。

これなら最初から地図には乗らないししばらくは見つからない。

となるとあとは人手だが会社ごと買って造ってもらうしかないか。

いきなり大人に頼ることにはなるがこうするしかない。

情報漏れも気にして給与も高い方がいいな。

さっそく中小企業に目を付けた。

従業員187人の聞きなれない会社を買収した。


「それで私たちになにをしろと…?」


「はい。人工島を造っていただきます。もちろん誰からもばれずに」


「人工島ですか…できなくはないですけど機材とかがあまりないので進みが悪いです。それに人もこれだと時間がかかるかと…。」


「必要なものは買いますよ。今の人数だとどのくらいかかりますか?」


「まあ必要なものがそろってこの人数でやりますと早くて5年ですかね。働きづめでですが」


「それでは人数を倍以上にしてなんとか1年で完成させるには?」


「あまり多くても意味ないので700人くらいいればなんとかなるでしょう。進み具合によりますが」


「わかりました」


そして俺は必要なものを用意し人数もかき集めた。

なにか足りなくなれば用意もした。

ここまで大規模なことを前の俺なら考えもしなかった。

我ながらちょっとおかしいと思う。

これも親のおかげだ。

通帳がなかったらなにもできなかったからだ。


そして月日が経つこと1年。

俺は15歳になった。

人工島もあとちょっとで完成という報告も受けている。

俺は家のテーブルに書置きをして家をでた。


作業してもらった人たちに感謝と口止め料としてお金を支払う。


「1年間ありがとうございました。お金は口座のほうに支払い済みです。あとは好きにしてください」


「ありがとうございました」


そして俺はついに人工島を手に入れた。

あとは勝ち取るだけだ。

最初に雇った187人を呼び止める。


「追加で船つくれませんか? 軍艦なんですけど。日本の大和とかをお願いしたいです」


「それは我々では…。船は造れても主砲などのものは造れません…」


それはそうか。

仕方ない。なんとかして雇ってくるしかないか。

俺は米へと飛んだ。

米で戦艦に詳しい人を雇って造らせるためだ。

早々に2人の専門家をみつけて作業にとりかかってもらう。

1から造ると時間がかかるので大型の船を買い取ったり、不要になった軍艦を裏ルートで入手したりしたので半年ほどで充分な戦艦ができた。

目玉は大和に似せて造った戦艦だ。

主砲だけを近代化させてロックオン型のミサイルを装備。

他に負けてはならないためにレールガンすらも装備させた。

これで勝ち取ることができる。

あとは人だ。

俺は子供は24歳までだと思っている。

なので自衛隊、米軍、英軍などに24歳以下の人をスカウトし雇った。

これでいい。

あとはこの国を世界中に知らしめる。

その時に世界中からくると予想する軍に対抗する。

あとすこしで準備が完了する。

するとメッセージが届いた。


『笹弥? 今どうしてるの?

学校に来ないと思って家に行ってもあんたいないし、ご両親に聞いてもわからないって…。

一体どこでなにしてるの?

一度でいいから会おうよ?

このままいなくなったらいやだからね。』


新井からだった。

そりゃ全然学校に行ってないんだ。

こうなるよな。

仕方ないので一度会うことにした。


『心配ないよ。

ちょっといろいろあってな。

夢に向かってる感じ?

近いうちに会って話すか。』


送信。

これでよしと。

そうだな。

あとは俺も銃の扱いを教わる必要があるな。

えーっと…。


「あんたが大津? 本当に日本人か!? すごいことするな」


黒人男性が話しかけてきた。

ちょうどいいや。

この人にお願いしよう。


「あの手間ですが俺に銃の扱いを教えてくれませんか?」


「そんなこと? オーケーオーケー!」


了承してくれた。

聞けば、この人はロビンと言う人で22歳という若さで米軍に在軍。

俺の計画を耳にして駆けつけてくれたらしい。


「それにしてもキミまだ若いよね。いくつ?」


「15歳です。自分でも頭おかしいと思います。ちょっと前までは普通の中学生だったんです。でも子供だけの世界を造りたいと思ってからはこんなことになってしまいました」


「本当、頭おかしいよキミ。でもそういうの嫌いじゃない。ただ覚悟が甘いと思うな。確かにキミは自分の欲望を叶えていてとても人間らしいよ。でもね先のことも考えておかないといけない。予想を上回ることが起きたとき、キミは一体どうするのか。こんな話しはいいか!」


いや、ロビンの言うとおりだ。

俺は自分の思ったままに行動してここまできた。

しかし先のことをあまり考えていなかった。

これからは考えていかないといけないだろう。


「それでいいか? 拳銃の撃ち方は両手でグリップすることで安定し命中精度が高まる。片手撃ちは初心者に向かないと思う。最初に右手でグリップし、右親指を上げて左手が入るスペースを確保。左手の掌低をグリップに密着させ、右手と同様に左手も可能な限りフレームの上の方をグリップしろ。左手の人差し指はトリガーガードの下に押し付けられる。トリガーガードの先端にチェッカリングが用意されている場合は、左人差し指を掛けるのも一つの方法だ。軽く前傾姿勢で体重の重心は前だ。撃つときはセーフティを解除しろよ! それと撃つ瞬間まではトリガーに指をかけないようにな」


「こればかりは使っていくしかないですね。一度に言われてもよくわかりませんし…セーフティにトリガー…覚えておきますね。それとリロードなんですが…」


「リロードは右手の中指、薬指、小指をグリップの前面に置き、親指でマガジンキャッチをするが戦争なんかは焦ったりしてマガジンなんてポイッとすることもある。人差し指はトリガーガード内に入れず、フレームの上に。腰のベルトに予備マガジンを固定するなら左手の掌をマガジンボトムに押し付けてマガジンをしっかり握り、人差し指をマガジンの前面、或いはマガジンが短い場合は弾頭に人差し指を置く。これで目視せずにマガジンの向きが認識できる。より確実に銃にマガジンを叩き込めるぜ」


ロビンが一連の動作をしてくれたがちょっと不安だ。


「それじゃ、俺は準備があるからまたあとでな!」


ロビンが行ってしまった。

とりあえず拳銃を携行しておこう。

使う使わないは別にして。


俺は新井に会いにいくことにした。

メッセージを送る。


『学校近くの公園に来てくれそこで話そう』


送信。

すぐに返事がきた。


『すぐ行くから!』


それにしても久しぶりだな。

でもこれで最後かな。

公園に着くと誰もいない。

土曜の昼だというのに嫌な静けさだった。

待つためにベンチに腰掛ける。

ついにここまできた。

ここでやめるわけにもいかない。

長い時間動きっぱなしだ。

仮に何もかも失敗したとしても悔いはない。


「笹弥っ!」


「おう」


声のしたほうを見ると柴田も来ていた。


「お前今なにしてるんだ? さすがに心配するぜ! それよりも会えてよかった。学校も親も誰も居場所がわからなかったんだからな」


「そうよ! 警察に通報しようとしたら笹弥の親がそこまでしなくていいって言ったのよ? もう意味わかんなくて」


それはたぶん政治家の親の息子が行方不明なんてことになったら大変だからだと思うな。

だけでこれからもっとすごいことになるんだよな…。

父さん、母さん。

ごめん。


「2人とも聞いてほしい。俺はこれから革命を起こす。子供だけの世界、国を造るんだ」


「笹弥…? なに言ってるの?」


「よくわからない冗談を言うようになったのか? でもそれ、ちっとも笑えないぞ?」


理解できないのは重々承知だ。

だがこの2人には知っておいてもらいたい。

俺の唯一の友達だから。


「意味わかんないよな。でもいいんだ。2人とも、今までありがとう」


そして俺は公園から立ち去ろうとしたところに黒い車3台が止まった。

中からは黒いスーツにサングラスの男が降りてきた。

10人はいる。

1人の男が口を開く。


「大津笹弥。あなたを銃刀法違反および反逆罪で身柄を拘束します」


油断した。

まさか準備段階でこんなことになるなんて。


「どういうことよ!」


「どうやら茶番じゃないことだけはわかったぜ…!」


スーツの男達が一斉に走ってくる。

逃げないと…!


俺は港方面へと駆け出す。


「で、どうすんだこれ? あいつらあきらかに政府関係者だぞ」


「とりあえず逃げるしかないでしょ? 笹弥? こっち港方面だけどいいの?!」


「港に船があるからそれで逃げる! っていうかなんでお前たちまで逃げてんの?! 追われてるのは俺なんだから一緒に走る必要もないぞ!」


なぜか2人も追われているようになっている。

これでは仲間だと思われてしまう。


「あの2人も仲間かっ?! 捕まえろ!」


ほら、仲間だと思われちゃったよ…。


「それで船には誰がいるんだ?!」


「あー仲間だよ。雇った兵士がいるんだ」


「雇った兵士って…笹弥がおかしくなっちゃった…(泣)」


港がみえてきた!

俺達は無我夢中で走った。


「どれが大津の船だ?」


「確かロビンがいるはずだけど…」


「…? ロ、ロビン…?」


走りながら船を探す。

あれだ!

ロビンがいるのが見える!


「ロビンー! 早く出発だ! 追手が来てる!」


「なんだって? すぐ出港だ。早く乗れ!」


俺達は船に乗った。

急いで港を出る。

…なんとか逃げ切れたか?


「ハァ…ハァ…なんとか捕まらずにすんだ…」


「これからは気を付けたほうがいいな。それで? この2人は?」


「俺の友人。女の方が新井で男の方が柴田っていうんだ」


「そうか。で? この2人はどうすんだ?」


「戻るわけにもいかないしそれに、一緒に逃げてきちゃったから仲間だと思われてる。連れていくしかない。いいよな? 2人とも?」


「そうするしかないみたいだからな。俺は平気だ」


「戻れないってどれくらい…? 家族は?! そんなー…」


「本当にすまん。不注意だった。でももう情報が渡ってるらしい」


これは急いで人工島を守らないと…。


「いいか? 島についたら一番安全な場所に2人を案内するから俺が行くまで勝手な行動はやめてくれよ?」


「わーってるって」


「え? なにがはじまるのよ?」


「下手したら戦争が始まる」


「おい! 島についたぞ!」


港に船をつける。


「俺はやることがあるからロビン! 2人を頼む!」


「任せとけ!」


俺は走って兵士達が集まっている広場へと向かう。

おお集まってるな。

俺のため、この国のために集まってくれた兵士達だ。

俺は恐れながらも挨拶をする。


「俺が大津笹弥です! こんな俺のために力を貸してくれて感謝しています! 俺がなぜこんなことをするかというと話は長くなりますが大人のいない国、大人のいない世界を想像したところから始まりました。大人がいないので言いなりにならなくていい。大人がいないので縛られることもない。子供は大人のオモチャじゃない! だからこそ今造りましょう! 俺達の手で! 子供だけの国を! 世界を!」


するとヘリの音が聞こえてきた。

あれは俺が新井達と会う前にマスコミにタレコミをしてこの現実を報道してもらうためだ。

大きく取り上げられれば全国規模で映像が報道され一気に知名度が上がるだろう。


「あのヘリはマスコミなので安心してください。今後はこの国をと呼びます! それでは準備開始お願いします!」


兵士たちが一斉に戦闘準備に入る。


「大津!」


ロビンだ!


「あの2人は?」


「平気だ!」


「ロビンはどこ担当なんだ?」


「あんたの護衛さ!」


「心強い」


そして俺はどう報道されているのか気になったのでインターネットでみて見た。

ヘリコプターからの映像とニュースキャスターがなにやら喋っている。


「ありました! 地図には載っていない島が本当に実在しました! 見てください! この広大な島を! なんとここには24歳以下の人達しかいない子供の国らしいです! 信じられません! なんとこの国はある一人の日本人の子供が一から造ったらしいんです! その子供というのがなんと! 日本の政治家、大津議員の息子という情報が入っています!」


まずまずだな。

やっぱり父親が取り上げられてるな…。

でもこれもわかってたことだ。

すると映像が切り替わり父親が映りはじめた。


「この度は誠に申し訳ありません。私ども、家族の責任です。私はこれをもって議員を辞職することを決めました。今まで本当にありがとうございました」


父さん…。

ごめんよ…。


そろそろ準備ができたころだろう。

映像がまた切り替わる。


「あっ! みてください! 船が出て行きます! あれは…軍艦ですかね? 何隻もあるようです! これは警戒しはじめたということでしょうか? 次々とででてきます! 数は50くらいでしょうか? またなにかわかり次第お伝えします!」


そして緊急速報でテロップが流れる。


【日本はたった今、謎の人工島へ護衛艦などの船を出港させることに踏み切る。なお、戦闘が目的ではなく、情報収集が目的としている】


ついにくるな。

俺は無線を手にした。


「全艦隊に告ぐ。攻撃は相手からしてきた場合に限る。繰り返す。攻撃は相手からしてきた場合に限る!」


そしてしばらくの様子見の末、ついに日本の護衛艦が姿を現したようだ。


「大津! 日本の船が見え始めたようだ!」


「よし。まず敵意がないことを示すんだ」


すると日本側にも敵意がないことを確認する。

だが油断はできない。


日本の船を誘導し港へ入れる。

そして話すことになった。


「これはこれはお招き感謝します。早河といいます」


「大津です。それでなんでしょう?」


「単刀直入に言います。ただちに武装を解除しなさい。そして投降してください。さもないと今想像していることが起きてしまうかもしれませんよ?」


「ここまでやってきてそんなことできるわけないじゃないですか。武装は解除しませんし投降もしません。俺達はいかなるときにも備えをしているのでどうぞご自由に」


「そうですか」


話しは終わった。

日本の船は出港して少し離れたところで止まった。

日本で今物議になっていることだろう。

だが日本の報道に変化はない。

どうなってる?

まさか放置とかいうわけでもないだろう。

これは…。


「大変だ! 大津! 日本が、日本が攻めてきやがった…!」


「なんだとッ!?」


あの日本が攻めてくる?!

本気だったのか…!


すると映像がヘリからの映像になった。


「見てください! 急に煙が上がりはじめました! それとものすごい音です! 発砲音でしょうか? 今日本とこの人工島は戦争をはじめました!」


映像は変わり日本の首相の会見映像になった。


「これは戦争じゃありません! これは日本からでたゲリラを撃退すべく活動しているのであります。決して、戦争などではありません。相手に投降も呼びかけました。しかしそれを否定してきたためにこうなっているのであります」


バカな!

ゲリラ扱いだと!

ふざけてる。


「日本は密かに潜水艦で近寄って上陸をしてきているらしい! 大津! もうやるしかねえ!」


「で、でも…。」


「シャキッとしろ! これは遊びじゃない! 自分の命がかかってるんだ! 覚悟を決めたんじゃないのか?! お前がリーダーだろ! 指示を出せ!!」


そう言われて無線で各隊に通達する。


「日本が攻撃をしてきたっ! 総員、攻撃を開始せよ!」


こうして日本との戦争が始まったのだが今日本では人権派団体が政府の対応に反対しデモがはじまっていた。

そしてついにこの事態は全国へと知れ渡った。

各国の人達が声をあげ、日本の対応を批判している。


「くっそ…!」


「大津! 今は平気だがこれ以上はもたないぞ! チャコの兵隊は3万はいるが奇襲を受けたために俺達はちゃんと機能していない! どうすんだ?!」


予想していなかった。

考えていなかった。

あの日本だ。 

まさか攻撃してくるなんて…。

ロビンの言うとおりだ。

先のことを考えていなかった。

俺は少しパニックを起こしていた。


「大津!!」


ロビンが俺の名前を叫ぶ。

すると次第に周りの音が聞こえなくなる。

これは…なんだ?

俺は現実にいたはずだ…。

ここはなんだ…。

…そうか。

これは俺の頭の中だ。

不思議と安らぎがうまれる。

そして俺はつむっていた目を開く。


「おい! 大津! お前の父親という男から連絡が入ってるぞ!」


無線を取って話す。


「父さん…!?」


「笹弥か? 今首相に話せと言われて連絡した! いいか? 日本の要求を呑め! 日本はその島を認めるかわりに日本のもしものときのためにいつでも動ける部隊としていてくれるなら攻撃をすぐにやめるようだ! それだけじゃない!支援もするらしい! こんないい話しはないだろう?!」


「わかったよ…」


正直俺は参っていた。

助かればいいと思っていたのかもしれない。


「よし! わかった!」


間もなくして戦闘は終了した。


「おい、大津!」


ロビンだ。


「それでいいのか? 日本の言いなりになったら大人に縛られるのと同じだぞ!」


「すまない…。でもこうすることで戦争を止めることができた!」


「それは逃げだ! 次は日本じゃなく違う国が襲ってくるかもしれないんだぞ! どうすんだ?」


「……」


なにも言えなかった。

ここまで辛いものと思ってなかった。

自分の考えの甘さに気づけた。


「笹弥?! 大丈夫?」


「大津? 大丈夫か?」


新井と柴田だ。


「おう。大丈夫だ。もう、日本に帰れるぞ。よかったな」


「悪いけど俺は帰らねえ。状況はよくわかってないがお前の力になるって決めた。だからここで一緒に戦ってやるよ!」


「私も! 不安とかはあるけど友達が困っているのなら助けたい! 私たち、なにをすればいい?」


「お前ら…。」


俺は一人じゃなにもできないんだな…。

2人には指揮官を命じた。

新井は海軍担当。

柴田は空軍担当だ。

これで少しは荷が下りる。

これで次襲撃されても2人が手伝ってくれる分さっきみたくならないだろう。


「3人ともちょっといいか?」


ロビンが小銃3つを手にやってきた。


「稽古つけてやる。こい!」


そして射撃をすることになった。

持ち方などはそれぞれ持ちやすいようにした。

そしてメンテナンスなんかも必要だとも言われたが時間がないので今は省くらしい。

あとから、


「メンテは実は難しくてな。各自分解して掃除すればいいのさ。ちゃんと部品はどこのか覚えておけよ」


ってな感じだった。

そしていざ撃ってみると3人とも意外と悪くない。

ロビンが、


「お前ら射撃経験あるだろ?」


っていうくらいだった。


「なんか思ってた以上に難しくないわね。これ本物よね?」


「俺もだ。なんでだろうな?」


「俺はさっきロビンから拳銃の扱い方を教えてもらったからそれを応用したんだけど…」


不思議なこともあるもんだ。


「ま、まあセンスの問題だからな…! (やべーよ! 俺なんて軍に入ったばっかのときこんなうまくいかなかったぞー!)」


とりあえず一つの国から承認を得られたチャコだったわけだが、まだまだ国はたくさんあるのでこれからが本番だ。

そして数日が経過したある日。


「うわあああああああ!」


柴田の叫び声が響いた。

なんだこんな時に?


「どうしたー?」


一応心配している素振りを見せる。

柴田は小銃のメンテナンスをしているようだった。


「た、大変だ…。い、今起こったことをありのまま話すぜ…? 俺達はロビンに『たまにでいいからメンテナンスしろよー?』と言われたから俺はメンテナンスをしていた。そしたら部品の一つが入りきらないまま完成してしまった…。なにを言ってるかわからないと思うが…。ま、ようするに。この部品はどこのだ?」


そういって銃の部品の一つを手に柴田は悩んでいた。


「だからロビンが言ってたでしょ? ちゃんとどこの部品か覚えておけって! あたしはちゃんと覚えてたからできちゃった」


そういってメンテナンスをした銃を見せつけるようなしぐさをする新井。

それをみてさらに苦悩する柴田。

ついでに俺もちゃんとできた。

これで銃に関してはだいたい平気だろ。


「部品の一個くらい、平気だよな?」


そういうと柴田は部品をどこかへ投げてしまった。

あ、コイツ。

ゲームや映画だと割と最初に死ぬやつだ。

俺は不安に思いつつも他のことを考えていた。

日本はいいとして次に行動してきそうなところは米か…?

いや中もあり得る…。

もしかして露かも…?

こんなことをずっと考えているから気が休まらない。

するとあまりみない顔の人に声をかけられた。


「あなたが大津さんですかっ! はじめましてっ! はじめまして? はじめましてだよね…? 開発部のホカといいますっ! 今更ながら挨拶しにきましたっ!」


「続いてはじめまして?! 同じく開発部のメクですっ! 以後、お見知りおきをっ! ですわっ!」


なんだこの2人…。

とても騒がしい人達だな…。


「そんな大津さんに相談がっ!」


「な、なんとぉーっ! 開発の経費は関係なく思う存分やってくれというのは本当ですかっ! ですわっ!」


すごいテンション高いな。

なんというかすごいこの場に合っていない。

例えでいうなら秋葉原の働いているメイドさん(営業モード)とかにいそうな感じ。

…秋葉原、行ったことないけど。

だが、そんな感じだ。


「ああ、本当だ。日本からの支援もあるし俺の手持ちもあるし、いい開発を心掛けてくれ」


「「やっほーいっ!」」


喜びながらどこかへ走り去った。

あんなキャラの濃い人がいたのか。

なんでもっと早く気が付かなかったんだ。

あれから日本とは良好な関係になっている。

あの争いは今では作られた映像とかって扱いになっているらしい。

日本に死傷者だでなかったからそうなった。

こっちはかなり…。

だけど周辺国とかは作り物でした。

なんて通用しないだろう。

だからこうして銃のメンテナンスや開発やらをして備えている。

こうして平和が続くならずっとこうしていたい。

のんきにしていると一つの連絡が入った。


「あ、父さんだけど…」


「えあ、どうも…」


つい変な声が出てしまった。

あれから父さんはチャコと日本の連絡員となった。

つまり父さんは今は日本の裏で活動している。


「…なに?」


「ああ。日本はやっぱりチャコへの支援に関しては表にはださないらしくてそれを伝えるだけだ」


「そう…。ありがと」


そして会話終了。

いやこれ会話しろって言う方が難しいから!

そもそもなに話せばいいのかわからないし。


しばらくしたら日本経由で米国から手紙がきた。

って米国ッ?!

手紙の封をあけ、読んでみる。


『手紙での通達、失礼する。

我が米での対応はまだ決まっていませんが、我々からみてもただの武装集団。

とても国とは呼び難い。

そこで、一体どういった国なのかお聞かせ願いたい。』


これはまたすごい手紙だ。

どういった国…か。

そうだな…。

これは俺も手紙で返せばいいのか?

さっそく書いて送ることにしよう。

『わざわざありがとうございます。

この国、チャコは子供のための国であります。

なので大人は出入り禁止(例外あり)。

子供難民から大人が嫌いな子供まで。

子供なら受け入れる国であります。

決してただの武装集団なんかではありません』


これでよしと。

これをまた日本を経由して送る。

いやだな。 

米国か…。

次の返答次第で動き出さないといけないな。

すると一本の電話が…。


「はい…?」


「米大統領ですが…」


あれ?

今さっき送った手紙がもう手元に行ったのか?


「返事を待っていられなかったので電話しました。番号探すの大変でしたよ…」


「それはすみません…」


「それで手紙のことなんですが、あなた方がなんであろうとやはりそのままにしておくことはできないという結論にいたりましてね…」


「はい…」


「どうしますか? このままでは衝突は回避できませんよ? 投降しませんか?」


俺は即答した。


「それはできません。俺達も信念がありますから」


「なるほど。それでは駆逐させていただきます。それでは」


だよなー…。

俺は急いで戦闘準備の通達をだす。


「米国が来るぞ! 日本のときのようにはいかない! 心してかかれ!」


兵士達が準備をはじめた。


「まったく次から次へと…。それで大津? 俺達はどこに行くんだ?」


あれ?

柴田だけか。

こういうときはいつも新井もいるんだけどな。


「指令室にいくぞ」


柴田と指令室に行くと新井がすでに指令室に立っていた。


「あら、遅いわね。先にやらせてもらってるわ」


しっかりしてるなー。

こういう姿見ちゃうとやっぱり頼ってしまうな。

こうしてられない。

早く警戒態勢に入らなくては…。


「総員、警戒態勢に移行! 相手は米国! 容赦するな!」


そして新井が海軍に指令をだす。


「全艦抜錨! ただちに戦闘準備に移行。見つけ次第攻撃!」


それに負けないように柴田も指示を出す。


「空母は海軍の後ろにつけ! 偵察機をだして辺りを探れ! 発艦用意!」


今回は万全だ。

だが相手は米国。

今回こそ死んでもおかしくない。

だが俺達は全力をだす。

この国のために。


「偵察隊が敵を目視した! くるぞ!」


そして攻撃機等が島に向かって飛んでくるのが見えた。


「対空はしてないのか?!」


俺が新井に聞く。


「だめ! 数が多い! 落としきれない! それに艦隊の殴り合いで手いっぱいよ!」


「柴田! 攻撃機をありったけだすしかない! 早く!」


「わかったって!」


そして激しい戦いが幕を開けた。

こっちだってただ負けるわけにはいかないんだよ!!


「ついに上陸されたぞ! 守りを固めるんだ!」


ロビンが対応にあたる。

が、圧倒的不利だった。

どんどん上陸され敵がそばまで迫ってきていた。


「まずい! このままじゃ指令室まで来ちまうぞ!」


すると扉を爆破され指令室で戦闘がおきる!

テーブルをバリケードにし、応戦する。

しかしあきらかに敵が多い。


「このままじゃ埒があかねえ! 俺が先陣する!」


柴田が突っ込んでしまった。


「おいっ!」


止めようとしたが遅かった。

俺も前にでる。

しかし敵も必死なのでなかなか突破できない。

すると敵の一人がナイフを持ち柴田へと近寄っていく。


「柴田! 敵が近いぞ! 撃てっ!」


そして柴田は近寄ってくる敵に弾を撃とうと構えたがなぜか撃たない。


「どうした?」


「トリガーを引いてるのに弾がでないんだ!」


このままじゃ危ない!

近くにいたロビンがダッシュで柴田にタックルし吹き飛ばす!

そして、


サクッ…。


ロビンはナイフを持った敵によって刺されてしまった。


「ロビン!! このぉー!」


俺が銃でナイフを持った敵をしとめる。


「ロビン!? 大丈夫か!」


「悪い、俺のせいで…」


柴田は涙を流していた。


「柴田…無事…だったか…よかった…」


「ロビン…! もういい! 喋るな!」


そしてどこかに隠れていたのか新井が駆け寄ってくる。


「なにかあったの?!」


「ロビンが刺された! 重傷だっ!」


そうか。

ロビンが言いたかったのはこれなのかもしれない。

だからロビンは考えが甘いって俺に言ったのか。


「…おい、大津…絶対、絶対…子供もための国を造ってくれよな…もしだめだったら…あの世で呪う…ぞ」


「ああ! 絶対に造る! 約束だ!!」


そしてロビンは息をひきとった。


「「「ロビンーっ!」」」


そしていつの間にか敵兵はいなくなり、米国から通信を受ける。


「やりますねえー。いや大したものだよ。君たちの熱意には負けたよ。それで我々は君たちにはなにもしないと決めた。国として認めはしないし、かといって攻撃もしない。これから頑張りたまえ」


そして切れた。

…一体命をなんだと思ってるんだ?

人が死んでるんだぞ! 

なぜあんな態度がとれる!

こんなことはもう嫌だ。

人が死ぬところなんて見たくない!

ますます俺はこの国の重要性を主張したいと思った。


「新井、柴田。これから子供をここに住まわせるぞ。もちろん希望者だ。誘拐などは一切しない!」


それからは争い等は起きなかった。

子供達を国籍問わずどんどん受け入れた。


「人工。多くなってきたわね」


「そうだな。ここで戦争が起こったなんてとても信じらんねーよ」


「でもこれからもっと繁栄していくぞ。今度は外だけじゃなく中を中心にやっていかないとな」


人工が増えてきたため必要なものはどんどん造った。

住居、学校、食品売り場など、いろんなものを一気に。

これで困りはしないだろう。

だが人が多くなるにつれ小さな事件が起きはじめた。

そのため軍が警察を担い、治安を維持する。

やっと国らしくなってきた。

ここまでするのに随分と時間がかかった。

だがやってよかったと思う。

今ではこの国が宝物だ。


「やっほーっ!」


ホカが俺に用があるらしい。


「ちょっと開発室来てくれない? いいものみせるかさっ!」


そしてホカに連れられ開発室に来たが…。


「なんだこれ」


そこには航空機があった。


「これねー? UAVっていって無人飛行できる航空機だよっ! すごいでしょ? でね、これを飛ばして常にこの国周辺を監視するのはどうかなっ? それだけじゃないよー? 国内の安全だって監視できちゃうっ!」


「それはいいな。さっそく飛ばすか」


「あいあいさーっ!」


すると航空機は飛んでいった。


「ところで、どう造ったの?」


「内緒でーすっ!」


俺に内緒とはいい度胸してるな。


「大津! 事件だ!」


柴田があわててやってきた。


「どんな?」


「米兵の生き残りがいたみたいで女の子が人質にされてる!」


「急いでいくぞ!!」


米兵がなぜ?

もしかして戦争がおわったことを知らないのか?


「おらぁ! 近寄んじゃねー! この女がどうなってもいいのかー?」


かなり混乱してしまっている。

これは危険な状態だ。


「落ちつけ! もう争いは終わったんだ! だからその女の子を解放しろ? な?」


「そんな嘘を誰が信じるんか!? 俺は騙されないぞっ!」


そして米兵はナイフを女の子に突きつける。


「やめろ! こんなことしてなんになる? それにその子は関係ないだろ? 離せ!」


「知ったことかー! 俺は…俺は! 生きて帰るんだぁー!」


米兵が女の子にナイフを振り下ろそうとするが間一髪で誰かが銃を撃ち米兵は死んだ。


「させないわ…少なくても私の前ではね」


新井が撃ったみたいだ。

だがそのおかげで女の子は助かった。


「ありがとうございます!」


「いいのよ。ところであなた、名前は?」


「あたしリリーっていいます!」


小さな女の子はリリーというらしい。


「あの、私も軍に入れてください!」


なんだって?


「だってよ? どうするの笹弥?」


「まあその子の希望なら…」


「やったー!」


俺達の戦いは続く。

今こうしてるあいだにもこの多くの子供がさ迷い苦悩しているかもしれない。

そんな子供に手を差し伸べるのが人工島、子供のためのチャコなのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る