第13話 出演交渉 その6
旧校舎の内部には、ところどころにゴミや、ガラス片なんかが散らばっていて、ほぼ人が入らないということが窺える。
「ところで、吉田」
「ひっ!」
と、俺が声を出すと、黒沢が小さく悲鳴をあげた。
「……なんだ。なぜ、驚く」
「だ、だって……いきなり喋りださないでくださいよ」
少し涙目になりながら、黒沢は俺にそう言った。俺は思わず大きくため息をついてしまった。
「あ、あはは……で、白石君、何?」
列の最後尾の吉田が不思議そうに尋ね返してきた。
「その……『花子さん』ってのは、美人なのか?」
俺は少し恥ずかしかったが、訊ねずに入られなかった。
俺がせっかく思い切って聞いてみたというのに、黒沢と吉田は呆然としていた。
「……へ? どういうこと?」
しばらくしてから吉田が我に返った様子で俺に聞き返す。
「だから……美人なのかどうか、と聞いている。恋愛の対象にするのだったら、ある程度は美人な方が、俺だっていいと思うわけだ」
「あー……そうだね……僕にもわからないな。でも、怨霊だから、おどろおどろしい容姿かもしれないねぇ」
困り顔で吉田はそう言う。俺はそれを聞いて少し不安になってきた。
いくらホラー恋愛映画を撮るとはいえ……花子さんが人外のような容姿をしていたら、恋愛要素は一気に難しくなってしまう。俺だってなんとなく知っている花子さんは、オカッパ頭の女の子だ。一応は人間であるとは思っている。
「……そうか。まぁ、あくまで要望なだけだ。別にどんなに不細工であっても出てきてくれるんならそれでいいが」
「せ、先輩……ほ、本気で幽霊に会えると思っているんですか? っていうか、あまつさえ、その幽霊と、ホントに恋愛しようって……ば、馬鹿じゃないんですか、ホント……」
すると、うわずった声で黒沢が訊ねて来た。懐中電灯を向けた先にいる黒沢は、その足が、小刻みに震えているのを俺は見てとることができた。
「なんだ。怖いのか?」
「だ、だから、怖いんじゃなくて……み、美夏は、こ、こういう暗い所が苦手なだけで……」
「苦手ってことは、怖いんだろう?」
思わず俺はニヤリと笑ってしまった。黒沢はむすっとした顔で俺を睨む。
「あ……白石君……」
「ん? どうした、吉田」
「……感じるよ。こう……何か霊的なエネルギーを……!」
吉田は眉間に皺を寄せて、目の前の暗闇を凝視していた。しかし、俺も同じようにそちらを見るが、特に何かがあるようには見えない。
「……何も見えないぞ」
「この先だよ……階段を上がるんだ」
「え、えぇ……階段、上がるんですかぁ?」
既に脅えきった声で黒沢は文句を言った。
「ああ。いやならここにいていいぞ」
「そんなぁ……じゃ、じゃなくて……わ、わかりました! 行けばいいんでしょ!」
結局、露骨に嫌がる黒沢を交えて、俺達はそのまま階段を上がる。
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