第12話 出演交渉 その5
深夜二時の聖彩学園の校庭は伽藍としていて、それこそ、まるで誰もいなくなった後の世界のようにシーンと静まり返っていた。
「うふふ……僕、こういう雰囲気は好きだねぇ」
急にそう言って不気味に笑い出す吉田。それを見て黒沢が引きつった顔で吉田を見る。
「おお、さすがだな、吉田。俺もこういう感じは大好きだ」
俺と吉田は顔を見合わせてニヤニヤとした。
「さぁ、不法侵入も済んだ事ですし、さっさと旧校舎に行きますよ」
どうにも不法侵入が気に入らなかったようで、黒沢は相変わらず不満そうである。せっかく侵入に成功したというのにノリの悪いヤツである。
俺達はそのまま、旧校舎へと向かった。校庭の端に佇んでいる旧校舎は、深夜とい状況的要因もあってか、余計に不気味な感じを醸し出していた。
「素晴らしいね。白石君」
興奮気味に吉田がそう言った。
「ああ……どうだ? 吉田。霊的な力は感じるか?」
「うーん……まぁね」
吉田は良く見ると、暗闇の中の猫のようにその瞳をらんらんと輝かせていた。
吉田がこの調子ならもしかすると、やはり何かあるかもしれないと、俺は思った。
「よし。黒沢。今からカメラを回せ」
「え? あ、ああ……はい……っていうか、いいんですか? こんなスマートフォンに付いているカメラで」
黒沢はそういって、スカートのポケットからスマートフォンを取り出した。俺は大きく頷く。
「ああ。いいんだよ。こういうあえての安っぽさが必要なんだ! ……ちなみに、それでも編集とかはできるんだよな?」
俺は心配しながらも、とりあえず黒沢に聞いてみる。黒沢は呆れながらも小さく頷いた。
「ええ……まぁ、私は小さい方が持ちやすいから楽ですけど」
「よし。では、始めるぞ……さて、これから俺達はこの恐るべき旧校舎に突入する……黒沢。ちゃんと撮れているか?」
「はい。撮れていますよ」
黒沢は俺にスマートフォンを向けている。一応撮影は担当してくれるようである。
俺は黒沢に対し、大きく頷いた。これから、ようやく撮影開始ということになる。
「吉田。どうだ? 心意気の程は」
「いるよ。絶対。何かが、ね……」
吉田は興奮気味にそう返事をした。無論、俺も同様にかなり興奮している。
「よし。では、さっそく突入だ」
再び俺を先頭にして、黒沢、吉田の順番で俺達は旧校舎へと突撃した。
入口の「立ち入り禁止」の立て看板を壮大に無視し、そのまま中へと突き進む。旧校舎の中は完全なる闇だったので、俺はすぐさま持ってきた懐中電灯を点ける。
「黒沢よ。この程度の灯りでも大丈夫か?」
「ええ、まぁ……ちょっと画面はかなり暗くなっちゃってますけど」
黒沢は困り顔でそう言う。
「そうか……懐中電灯、もう一つくらい持ってくればよかったかな」
後悔しても仕方がない。映像はあとで確認するようにすればいい。
俺達はそのまま、無言で旧校舎の奥へとさらに歩みを進めていった。
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