第11話 出演交渉 その4
そして、その日の深夜二時。
俺は腕組みをしたままで、校門の前に立っていた。来ているのはまだ俺だけである。
「あ……先輩、早いですね」
丁度そこへ、嫌そうな顔をしながら、黒沢がやってきた。
「おお、黒沢。ちゃんとカメラ、持ってきたか?」
俺がそう訊ねると、黒沢は小さく頷く。
「一応指示された通りのもの持ってきましたけど……ホントにいいんですか?」
「ああ。いいんだ。問題はカメラとかそういう機材面の問題ではなくて、これから何が起こるか、っていうことだからな」
「はいはい……どうせ何も起こらないと思いますけどね」
「何か言ったか?」
「え? あ、なんでもありませんよ……あ。あそこにいるの、吉田先輩だ」
その視線の先に吉田を捉えたらしい黒沢は、その途端にものすごく嫌そうな顔をした。
俺もそちらに顔を向ける。
「お待たせ~」
呑気にそう言いながら、やってきた吉田の姿は酷く滑稽だった。
左手に聖書、右手の手首には数珠を巻きつけており、首にも十字架のネックレスをしている。
「どう? 霊能力者っぽい?」
吉田は少し得意気にそう言った。
その統一性のない宗教世界観は、確かにインチキ霊能力者っぽい感じではあった。
俺は何も言わずにそのまま校門の方に顔を向けた。
「さて、問題はどうやって校舎に侵入するか……そうだよな、黒沢」
「え? 先輩。考えてなかったんですか?」
またしても呆れ顔で黒沢が俺のことを見る。しかし、俺は得意気に笑ってみせる。
「ふっ……黒沢よ。言っただろう? 俺には秘策があるのだ。ついてこい」
そう言って俺は、校門から離れる。その後ろを、黒沢と吉田が付いてくる。
聖彩学園は、校庭の周囲が金網のフェンスで囲まれている。そしてその周りにはさらに植え込みがある。
「先輩? どこまで歩くんですか?」
「ここだ」
俺はそう言って立ち止まる。
「え? ここ、ですか?」
「ああ。この植え込みの後ろに秘密の入口がある。黒沢、見てみろ」
「え? 秘密のって……あ」
と、俺が指示する通りに植え込みに入った黒沢は小さく声をあげる。
「どうしたの? 黒沢ちゃん?」
「……フェンスが破れています」
植え込みの影から出てきた黒沢は俺に訝しげな視線を向けた。
「ふっ……お前の予想通りだ。こんなこともあろうかと、俺は人目につかないように少しずつ金網に穴を開け、ちょうど植え込みから死角になっている部分に人一人入れるような穴を作ったのだ」
我ながら準備のいいことである。俺は自分自身の行動に最大限の賛美を送りたかった。
「はぁ……先輩。これは犯罪ですよ」
あり得ないという顔で俺を見てくる黒沢。しかし、俺は動じない。
「ふっ……良い映画のためには多少の無茶は必要なのだ。まぁ、いい。とにかくここから入るぞ」
俺を先頭にしてその穴から俺達は校庭に侵入した。
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