第9話 出演交渉 その2

 その後、部室に戻った俺は、待機していた吉田に対して撮影を決行することを伝えた。

「あ、あはは……えっと、一応確認なんだけど……園先生は、それ、許可したとは言ってないんだよね?」

 吉田にしても、またしてもそんな些細なことを聞いてきたので、俺はホトホト嫌気がさしてしまった。

「……ああ。言っていない。だが、それは仕方のないことだ」

「仕方なくはないでしょう……はぁ」

 俺の隣で、またしても黒沢が呆れ気味にため息をつく。俺は気にしないことにした。

「あー……うん。まぁ、園先生、優しいし、許してくれると思うよ?」

「ちょ……吉田先輩……いいんですかぁ?」

 不満そうに黒沢は吉田を見る。吉田は苦笑いしていた。

「あはは……まぁ、こうなっちゃったら、もう止められないって、黒沢ちゃんもわかっているでしょ?」

「それは……そうですけど……」

 恨めしそうに俺を見る黒沢。しかし、もはや、俺の情熱を止められるものは誰もいないのである。

「……よし! さっそく撮影の準備にとりかかるぞ!」

 俺が高らかにそう宣言すると、吉田だけが、控えめに小さく拍手をする。

「うん。そうだね。それで……いつ開始するの?」

「もちろん、すぐに、だ。撮影の開始は今日の深夜二時……場所は、この学園の旧校舎で行う」

「はぁ? ちょ……先輩、今日、ですか? し、しかも旧校舎にホントに行くんですか!?」

 信じられないという顔と、素っ頓狂な声をあげて、黒沢は俺に詰め寄って来た。

「ああ。そうだ。花子さんは旧校舎にいるんだろう? だったら、旧校舎以外にどこに行くと言うんだ?」

「そ、それは……そうなんですけど……」

 どう見てもあまり乗り気ではない黒沢は何かブツブツと呟きながら俯いている。

 俺は一々黒沢には構っていられないので、話を進めることにした。

「よし。じゃあ……黒沢は撮影の準備をするとして、吉田は……それっぽい格好で来てくれ」

「え……それっぽいって……霊能力者的な格好ってこと?」

「そうだ。お前の裁量に任せる」

 こうして、撮影の段取りは決まった。

 深夜の二時に校門の前に集まり、皆で旧校舎へと忍び込む。

 そして、撮影を行いながら四階のトイレに向かって、そこで「トイレの花子さん」と対面する……これが俺の考えたスケジュールだった。

「でも、白石君。少し気になることがあるんだけど」

 と、俺が完璧なスケジュールに満足していると、不安そうに吉田が聞いてきた。

「気になること? なんだ?」

「その……校門は深夜、閉まっているよね? どうやって旧校舎へ侵入するの?」

 吉田の言う通り、深夜にはもちろん校門は完全に閉まっており、そこからの侵入は校門を飛び超えでもしなければ不可能だ。

 もちろん、校門を飛び超えようにも、聖彩学園の校門の高さは、普通の一般的な高校生は愚か、人間が飛び超えられる高さではない。

 だが、俺には秘策があった。

「ふっ……そこは問題ない。とにかく、今日の深夜二時に、校門前に集合しろ。わかったな?」

 俺がそう言うと吉田は頷いた。

 黒沢の方は嫌そうな顔しながら大きく溜息をつきつつも、降参したように小さく頷いていた。。

「よし。それじゃあ解散だ」

 俺達は部室を出ることにした。再び深夜二時に再び集合することを確認し、それぞれ一旦帰宅したのであった。

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