第5話 企画立案 その5

「違うって……何が違うんですか?」

「ふふふ……今回は、リアル路線で行く」

「リアル……路線?」

 またしてもよくわからないことを言い出した……みたいな顔で黒沢は俺のことを見る。

「そうだ! 黒沢よ。今まで俺は幽霊というものを擬似的に作り出してきた……お前に頼んでプラズマ的効果を映像の中に取り込んでもらったりしてな……だが! 今回はあくまでリアルにこだわる!」

「リアルにこだわるって……なんですか? 幽霊を実際に撮影するってことですか?」

「その通り! 映画の制作方法は今までどおりモキュメンタリー形式で行う……実際に俺が幽霊を見つけて、その幽霊と恋愛する……そうすれば、究極のリアルを描いた真実の! 恋愛ホラー映画が完成するんだよ! 黒沢!」

 思わず熱く俺は語ってしまった。

 俺の中では相当やる気が高まっていた。これほどまでにいいアイデアが思いついたのは久しぶりだったからだ。

もちろん、今まで得意としてきたからこそ、モキュメンタリー形式にすると言ったのもあるが、先ほど見ていたホラー映画の影響もある。

モキュメンタリー形式にすれば、多少カメラの扱いが雑だったり、演出が安っぽくてもむしろリアル路線だと言い張れば良い……そういう利点があるのだ。

そして、そこに恋愛ホラー映画という発想……これはまさに神が与えた啓示なのだと俺は理解した。

 しかし、俺に比べてなぜか黒沢のテンションは低かった。

「どうした? いい折衷案だと思うぞ。なぁ、吉田」

「ああ……そうだね。僕もそう思うよ……でも……」

 そういって吉田は横目で黒沢を見た。黒沢はやはりあまり嬉しそうでなく、むしろ、ムスッとした顔で俺のことを見ている。

「黒沢。何か言いたいことがあるのか?」

「え? ああ。いえ。まぁ、いいんじゃないですか? それで」

 と、なぜか俺が聞くと、やけに素直な態度で、黒沢はそう言った。

 ……というよりも、どこかバカにしている感じがある。

「……なんだ。その言い方は」

「だって、そうじゃないですか。実際の幽霊と恋愛するって……そもそも、幽霊ってどうするんですか? 幽霊をどう用意するんですか?」

 黒沢にしては珍しく問題の根本を聞いてきた。俺もそのことに関してはすでに考えは及んでいるのだ。

「ふっ……やはり、か。そんなことを言い出すと思っていたさ。もちろん、既に俺の頭の中にはそこまで計算されている」

「へぇ。じゃあ、どうするんです?」

 俺は黒沢に俺が考えていた、とっておきの明暗を披露するつもりで、少しもったいぶってから先を続ける。

「……黒沢よ。お前は『トイレの花子さん』って知っているよな?」

 俺がそう訊ねると、黒沢は狐に摘まれたような顔で俺のことを見た。

「えっと……あれですか? 一応、知っていますよ。トイレにいる、おかっぱの女の子の幽霊でしょ? それがどうかしたんですか?」

 俺は黒沢の問いには答えず、吉田を見る。

「吉田よ。この学校にも、確か『学校の怪談』的な話、あったよな?」

 いきなり話を振られた吉田は少し戸惑った。しかし、すぐに自分の得意ジャンルの話だと気付くと嬉しそうな顔をする。

「うん。あるよ。僕、そういう話は大好きだからね。それに、ウチの学校は旧校舎があるからね。その手の話題はたくさんあるんだ」

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