第4話 企画立案 その4

黒沢が怪訝そうな顔で吉田を見る。思わず俺も怪訝そうな顔をしてしまった。

「どういうことだ?」

 俺も同じように吉田に訊ねた。

「ホラー映画と恋愛映画、その中間地点的な映画を撮ればいいんじゃない?」

 俺と黒沢は思わず顔を見合わせる。しかし、吉田はさも上手いことを言ったという感じで満面の笑みを浮かべていた。

「あー……その……中間地点、ですか? 吉田先輩……いくらなんでも無理ですよ。ホラー映画と恋愛映画は正反対の存在です。いうなれば北極と南極ですよ。二つは遠く離れて位置するものなんです。そんなもの、できるわけありませんよ」

 黒沢はあり得ないという感じで一笑に付してそう言った。

 しかし、俺の中で何かがひらめきかけていた。

 ホラー映画と恋愛映画……たしかに、この二つを一つの映画にするというのは、ある意味では板前が作った極上の寿司に、タバスコをぶっかけてしまうような破滅行為に思える。

 よくあるあまりにも色々な要素を取り入れすぎて何がやりたいのかわからないB級……いや、Z級のホラー映画に見られるような状態になってしまうだろう。

 だが……

「……いや、できる」

「……は?」

 黒沢がぽかんとした様子で俺を見てきた。

 しかし、俺にはすでに明確な自身が頭の中にふつふつと湧き出してきていた。

「……どういうことです? 白石先輩」

 面倒くさそうな顔で、黒沢は俺に訊いてくる。しかし、俺にはきちんと黒沢に言い返す準備があった。

「ふっふっふ……吉田よ。いいことを言ってくれた。いや、実は俺も丁度そのことについて言おうと思っていたのだ」

「……え? そうなの?」

 吉田は目を丸くして俺を見る。

 もちろん、そんなことはなかった。たった今思いついたのである。

 だが、事実、吉田の発言は俺のインスピレーションに雷のような衝撃を与えたのだ。

そして俺の脳内では、自信につづいて、新作映画完成までの道順が、まるでパズルのピースのようにピッタリと嵌ったのだ。

「ホラー恋愛映画! そうだ! 次回作はこれで行こう!」

 俺は部室に響き渡る声で堂々と宣言した。

 完全に決まった……俺は確信していた。

「……はい? え? 先輩、なんですか。それ?」

 しかし、またしても黒沢は俺のテンションを下げようとするかのように、やる気のない顔で俺のことを見る。

「はぁ……黒沢よ。だから……言った通りだ……ホラー恋愛映画! 次回作のテーマはこれだ!」

「あ、はい。その……それは分かったんですが……ホラー恋愛映画ってどういう映画なんですか?」

 黒沢はまたしても訊いてくる。俺は思わず大きくため息をついてしまった。

「わからないヤツだな。簡単だろ? ホラー映画の中に恋愛を取り入れた、映画というメディアの定義を根底から揺るがす新ジャンルのことだよ!」

 新ジャンル……なんと良い響きであることか。

 そうだ……これは革新的な考え方だ。今まで全く誰もやろうとしていなかったことをやる……これほどまでにクリエイターとして喜ばしいことはない!

「い、いやいや……だから、具体的にどういう話になるんです? あれですか? 幽霊と恋愛でもするんですか? 先輩。そんな映画、別にたくさんありますよ。好きだった人が幽霊になって戻って……みたいな、ですか? 別にそういうのはホラー恋愛映画って言わないと思いますけど……」

 黒沢はそれでも俺の意見に賛同しないらしい。もちろん、それは予見済みである。

「ふっふっふ……わかっている、黒沢よ。それは承知している。単純にそういった話をでっちあげて映画を撮るなら簡単だ。それは別にホラーでもなんでもない。おそらく恋愛映画といっていいだろう……」

「だったら、それでいいじゃないですか」

「しかぁし! 今回俺が考えている映画は違う!」

自分の要望が通ると思って一瞬だけ嬉しそうに目を輝かせた黒沢に対し、俺ははっきりとそう述べた。

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