第3話 企画立案 その3
「二人共、にらみ合ってどうしたの?」
「どうもこうもない。黒沢が部をやめるそうだ」
俺は不機嫌そうにそう言った。
黒沢は一瞬こちらを睨んだが、すぐに顔を反らした。吉田はキョトンとした様子で俺と黒沢を交互に見る。
「え? でも、黒沢ちゃんが部をやめると、映画部の部員が……」
吉田が心配そうにそう言う。
「そう。足りなくなる。が、そこは問題ではない。部員なぞいくらでも水増しできる。問題なのは、映画を作る技術を持った人間がいなくなるということだ」
俺は憮然とした態度で答えた。黒沢はそれでもあくまで譲る気はないようで、俺から顔を反らしたままである。
俺は少し譲歩策に出ることにした。
「……なぁ、黒沢。確かに俺があまりにもわがままだったということは認める。だがな、俺は撮りたいんだよ。この学園生活の中で最高の映画を! お前だってそういう映画、撮りたいだろ?」
俺がそう優しく言ったにも拘らず、黒沢は鼻を鳴らして馬鹿にしたように俺を見る。
「……ふんっ。そんな調子の良いこと言わないで下さい。美夏だって自分の好きな映画を撮りたいんです。先輩がどうしても映画を撮りたいっていうのなら……そうですね。美夏の意向も汲んでくれるような映画作りをしてほしいですね。だったら美夏もこの部活に残ってあげないこともないですよ?」
そういって黒沢は俺に向かってニヤリと口に端を釣り上げた。俺は思わず言葉に詰まってしまった。
黒沢の奴……俺が譲歩するしかないと思っての行動なのだろう。
しかし、黒沢が思っているほど俺は簡単な人間ではない。俺としてはそこだけは譲りたくなかったのだ……かといって、ここで折れなければ映画部は映画を撮ることができなくなってしまう。
確かに黒沢がいなくなってしまうと、映画を作れるという可能性さえ消滅してしまう……悲しいかな、俺はあくまで監督であるのだが、黒沢抜きでは映画ではできないのである。
そうなると、黒沢が映画部を去った瞬間、やはり全てが終了ということになってしまう。それだけはやはり問題だ。
「……おい、吉田」
「え? 僕?」
「僕」という独特の一人称で自分を指さす吉田。俺にいきなり話を向けられたためか、吉田は目を丸くして俺を見ている。
「お前、どうすればいいと思う?」
「どうすればって……急にそんなことを言われても……」
「いいから。応えろ」
俺がそういうと困った顔で吉田は俺と黒沢を見比べた。それから、何かをひらめいたかのようにポンと掌を叩く。
「……そうだ! ここはお互いの要望の間をとってみるというのは、どうかな? つまり、折衷案」
「……折衷案?」
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