第2話 企画立案 その2

いきなりのことに俺は、黒沢が何を言っているのか分からなかった。

 さすがにそれは……俺としても困るのだ。

 黒沢が部をやめた場合、さすがに困ったことになる。

聖彩学園の部活動の規定人数は最低でも三人である。そして、現在、映画部の部員名簿に名前が載っているのは俺を含め三人。

つまり……完全にギリギリなのである。

 ここで黒沢にこの部活をやめられてしまうと、映画部は崩壊してしまうのだ。

 崩壊というのは人数的な面の問題ではない。名簿の人数なんてものはいくらでも水増しできるのだから、人数規定の点で問題はない。

 ここでの崩壊とは、映画製作のノウハウ的な意味の崩壊だ。

 黒沢は確かに口やかましく、身体も貧相であるが、映像を編集する技術がある。対して、俺にはそんな技術は全くない。俺にはアイディアをひらめき、映像を撮る技術しかないのである。

というわけで、さすがに黒沢にやめられると、映画作りの技術を持った人間がゼロになってしまうという大問題があり、それは俺にとってはもはや死活問題なのであった。

「ま、待て! 早まるな、黒沢!」

 さすがの俺も説得に入ることにした。しかし、黒沢の表情は冷たいものである。

「……いいえ。早まっていません。もう決めました。美夏、この部活、やめますから」

「な、何故だ? 何が不満だ? 言ってみろ」

「……はぁ? 何が不満って……全部に決まっているじゃないですか! 先輩はいつも自分勝手で……美夏は! ホラー映画なんて撮りたくないんですよ!」

「なんだと? お前なぁ……それでお前はホラー映画を撮らずに何を撮る気だ? まさか、昔お前が言っていた恋愛映画なんていう茶番劇を撮ろうなんていうんじゃないだろうな?」

 俺がそう言うと、黒沢は顔を真っ赤にして俺のことを睨む。

 そもそも、聖彩学園映画部は、ホラー映画専門の映画部ではなかった。元々は、ホラー映画以外にも様々な映画を採っていたらしい。

 しかし、俺のおかげでホラー映画製作中心になったのである。だが、かつて、その方針に対して、黒沢は文句を行ってきたことがあるのだ。

ホラー映画ではなく、恋愛映画を取りたいと言っていた。

「なっ……! れ、恋愛映画のどこが茶番なんですか! どうして先輩は自分の好きな物以外に否定的なんですか! だから、みんな部活をやめちゃったんでしょうが!」

「それはアイツ等が俺の理想を理解できなかったからだ! 黒沢……やはりお前も俺のことを理解していなかったのか……」

「何勝手なこと言っているんですか! 美夏は、ずっと前から恋愛映画が撮りたいって言っていたじゃないですか! 先輩の理想なんて知りませんよ!」

 俺と黒沢は睨み合った。どちらも一歩も譲ろうとしない。

 ……このままでは、決着もつかないし、おそらく俺と黒沢は永遠に睨み合ったままではないだろうか。そう思ったその時だった。

「あれ?」

 部室の扉が開いた。俺と黒沢は同時にそちらに顔を向ける。

 俺と黒沢の視線が向けられた先には、髪の長い女の子が気まずそうに立っていた。

「……なんだ。吉田か」

「やぁ。白石君」

 状況にそぐわずに、ニッコリと微笑む背中までかかるほどの長い黒髪の少女。

 黒沢とは正反対に、出る所は出ていて、女性的な膨らみを感じさせる体つきをしているが……どことなくミステリアスな雰囲気を感じさせる少女である。

 コイツの名前は吉田乃絵瑠。映画部三人目のメンバーである。

 吉田は正規の映画部員というわけではなく、兼部という形で映画部に所属している。

 吉田と俺が知り合ったのは、映画の撮影の時だった。

それは、学園内でオカルト研究会という名前をたまたま目にした俺は、その研究会の会長である吉田を主人公として、俺の特異とする所のモキュメンタリー形式のオカルトホラー映画を撮ろうとしたのだ。

残念ながらその映画自体は、俺自身として、あまりにも出来が悪かった……つまりは、あまり超常現象的なことが起きなかったので、お蔵入りとなったが、それ以来吉田とは親交がある。オカルト研究会なんていう奇妙な名称の団体に所属する吉田には友達がいないのだろう。そのためよく、映画部の部室にやってくる。

 というか、彼女の所属しているオカルト研究会は、彼女一人しか会員がいないので、同好会としてすら認められていないということもあるのだろうが。

 そして、そんな彼女が、ちょうどタイミング悪く映画部の部室にやってきたというわけである。

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