花子さんVS学校の怪談 ~聖彩学園映画部撮影記録~
味噌わさび
File1
第1話 企画立案 その1
「これだ!」
それは、夏休みも迫った七月三日のことであった。
俺はいつものように俺自身が通っている私立聖彩学園映画部の部室でレンタルビデオ屋から借りて来た映画館では誰もみないようなB級ホラー映画を見ていた。
「……なんですか? 先輩。うるさいですよ」
「閃いたんだよ! 黒沢! 新作のアイデアが!」
俺は振り返る。振り返った先には、ジト目で俺のことを睨むツインテールの女の子がいた。
高等部の制服を着ている俺とは違い、中等部の制服を着ていることで、ソイツが俺の後輩であることはわかる。その身長の小ささ……というか、身体に貧相さからも、俺よりも年下であるということは明らかであったが。
この貧相で可哀想な体つきの女子の名前は黒沢美夏。俺と同じ、聖彩学園の映画部の部員である。
「先輩……あの、もう一度聞きますけど……なんですか?」
「だから! 思いついたんだよ! 新作映画のアイデアを!」
俺がかなりのテンションで喋っているというのに、黒沢はわざとらしく大きくため息をつきながら肩をすくめる。
「……先輩。アイデアを閃くのはいいですよ。ですけど、何か忘れていませんか?」
「あ? 何を忘れているというのだ?」
「……はぁ。いいですか? この部室、もう一度良く見て下さい」
黒沢に言われるままに、俺は 部室を見回す。
部室には、俺と黒沢以外誰もいない。
「……で? 何かあるのか?」
「……で? じゃないですよ! 無茶な撮影スケジュール、理不尽な展開の脚本、ただの罵倒としか思えないような演技指導……それら全ての蛮行によって映画部の部員は美夏と先輩だけになってしまったんです!」
「何? 随分と酷い話だな……一体誰がそんなことを?」
すると、黒沢は険しい顔をしていきなり立ち上がった。
「それもこれも! 全部! 部長である先輩のせいでしょうが!」
黒沢のやかましい声が部室に響いた。俺は思わず顔をしかめてしまった。
やれやれ……うるさい後輩である。部員がいないことは俺自身だってよくわかっているのだ。
「……ああ。わかった。しかし、黒沢よ。それは、奴らが俺の指導に耐えられなかったのが悪いのだ。俺は映画にあくまでストイックに立ち向かっている。奴らにもそれを理解してほしかったのだがなぁ……」
しかし、残念ながらこれまでの映画部員には俺の理想についてこられるようなヤツは一人もおらず、どいつもこいつも根性なしばかりだった。
結局、最後まで残っている黒沢こそが、ひょっとすると根性は一番あるヤツなのかもしれない。
もっとも、その黒沢も、この口やかましさからは、俺の映画に対する崇高な考えを理解しているとは思えなかったが。
「はぁ……そうですか。先輩の映画に対する熱い気持ちはよーく、わかりました」
「お? そうか、黒沢。わかってくれたのか?」
思わず俺は期待してそう訊ねてしまう。しかし、黒沢の表情はなんとも苛ついた感じのものであった。
「ええ。ですから、美夏、もうこの部をやめます」
「……は? なんだって?」
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