第27話 撮影決定 その3
そして、俺が待つこと約三十分。
吉田は手短に終わると言っていたくせに、全く戻ってくる気配を感じさせなかった。
「アイツ……一体何やってんだ?」
手持ち無沙汰の俺はイライラしながら辺りを見回していた。
「あ。先輩」
「ん? お前……黒沢?」
そんな俺の視界に、突然ツインテールの小さな女子生徒の姿が入ってきた。
黒沢がなぜか俺の目の前に姿を現したのである。
「お前……なんでここに?」
俺がそう言うと、黒沢はムッとした顔で俺を睨む。
「映画のことが気になったんですよ。『トイレの花子さん』が撮影に協力するの、本当にOKしたのかな、って」
「ああ。そのことか。もちろん、OKだ」
「……え? 決まったんですか。撮影」
「ああ、嘘じゃない。決まった」
すると、黒沢は降参した兵士のように、やるせない顔をして大きく溜息をつく。
「……そうですか。分かりましたよ。で、撮影開始は明日だって言っていましたよね。夜ですか?」
「ああ。無論、夜中の二時に集合だ」
「はいはい……で、場所は?」
「そりゃあ、旧校舎に決まっているだろ」
そう言うと黒沢は露骨に嫌そうな顔をした。
「なんだ? 嫌なのか?」
「嫌……ですけど……わかりましたよ。美夏もちゃんと撮影、やりますからね」
黒沢は渋々そう言った。俺はむしろ心の中でガッツポーズしていた。こう言ってしまった以上、黒沢も撮影に協力的にならざるを得ないからである。
「それにしても、吉田先輩はどうしたんです? 姿が見えませんが」
「ああ、吉田か。アイツ、いつまで花子と話しているんだか……」
「え? 吉田先輩。花子さんと話しているんですか?」
「そうだ。まったく、そりゃあ、アイツは怨霊とはいえ女の子だよ。だけど、怨霊とガールズトークっていうのはどうなんだろうな?」
「あ、あはは……まぁ、吉田先輩も、先輩に負けず劣らずの変人ですからね……」
「あ? 俺は変人じゃないぞ? あくまで映画に少し情熱を傾けすぎているだけだ」
俺の言葉を聞いているのかいないのか、黒沢は適当に相槌を打っていた。
かといって、これ以上帰ってこないようだと、さすがに俺も我慢の限界である。いよいよ吉田のことをこっちから迎えに行くのも辞さないわけだが……
「ごめん! 白石君!」
そんな考えが頭をよぎった頃、ようやく背後から吉田の声が聞こえてきた。
「遅い! 一体何してたんだ?」
俺は思わずそう怒鳴ってしまった。急いでやってきたようで、吉田の長い黒髪がかなり乱れている。
「ごめん……ちょっと、話し込んじゃってね、あはは……」
「……で、何の話をしてたんだ?」
俺がそういうと吉田は言葉に詰まった。そして、ごまかすかのように長い髪の乱れを手で直し始める。
「おい、吉田」
「あ……後で話すからさ。そんな大事な話じゃないんだ。あはは……あ。黒沢ちゃん! 来てたんだ」
「え? あ、ああ……どうも」
いきなり話をふられた黒沢は戸惑ったようで、少し言葉に詰まりながら返事をする。
「えっと……白石君から話はもう聞いた?」
「え、ええ……聞きましたけど」
「そっか。じゃあ、明日から撮影、頑張ろうね!」
明らかにテンションの可笑しい吉田。この時ばかりは、俺と黒沢は二人でそんな挙動の吉田を見てしまう。
「え……どうしたの?」
俺達二人の視線を感じた吉田は、さすがに気まずそうな顔で俺達を見てくる。
「吉田、お前……」
「……あ! そ、そうだ! 僕、今日は買わなきゃいけないオカルト雑誌があったんだ! ごめんね、白石君、黒沢ちゃん! じゃあ、これで!」
そう言うと吉田は、そのまま慌てて走り出した。運動とは無縁のはずのオカルト研究会会長は、俺達の視界からあっという間に姿を消したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます