第24話 花子さんVS学校の怪談 その4

「……覚えていません」

「……え?」

 そして、黒沢に向かってそう言ったのだ。

「覚えてない……です」

「……え? ど、どういうことですか?」

「……私……覚えてないんです。自分がいつ死んだとか……死んだのは覚えているんですけど……」

「へ、へぇ……じゃあ、なんで死んだんですか?」

「……自殺です」

 花子ははっきりとそう言った。

その場にいた俺含め、誰もがそれ以上は何も言えないくらいの響きを、その言葉は持っていた。

「……私、イジメられていて、トイレに閉じ込められちゃったんです。そしたら、もう死んでもいいかなぁ、って……思って、それで……ひっぐ……ぐすっ……」

 そして、そのまま花子は泣き出した。

 ボロボロと涙を零して、その場で大泣きを始めてしまったのである。

「……おい、黒沢」

「え……な、なんですか?」

 黒沢は、目の前でいきなり泣き出してしまった花子に、どうやら呆然としていたようであった。

「コイツ、やっぱり『トイレの花子さん』だよな?」

 俺がそう言うと、黒沢は何も言い返せないようで、悔しそうに下唇を噛んで俺を睨みつけたのだった。


 それから、しばらくして、花子が泣き止むのを待ってから、俺達は旧校舎を後にすることにした。

 花子は俺達を見送ると言って昇降口までやってきていた。

「じゃあな。花子。黒沢も撮影を了承したみたいだから。諸々決まったらまた来るからな」

「あ……はい」

 花子は小さく頷いた。

「よし! じゃあ、黒沢も吉田も映画撮影に向けて準備、進めるからな」

「……はいはい。わかりましたよ」

 黒沢が渋々そう言った。

「なんだ? まだ納得いってないのか?」

「……別に、美夏は充分理解しましたよ。先輩が、やっぱり最低の男だってことを」

「はぁ? どういうことだ?」

「ふんっ。もういいです。美夏は帰ります」

 そういって黒沢はそのまま背中を向けて旧校舎を出て行ってしまった。

「なんだ、アイツ。変なヤツだ」

「あ、あの……」

 と、後ろから花子が声をかけてきた。

「ん? なんだ、花子」

「そ、その……私のせい?」

 オドオドとした様子で、花子はそう訊ねてきた。

「は? 何が?」

「だ、だって……あの子、私のせいで……なんだか嫌な思いをしているんじゃないかな、って……」

「はぁ? あっはっは! 何言っているんだ。黒沢はいつもそうだよ。大体、怨霊がなんでそんなこと気にしているんだよ。お前は映画を撮ることだけ考えてりゃいいんだ」

「あ……はい」

「よし。じゃあ、帰るぞ、吉田」

「あ、うん……その、花子さん」

 今度こそ帰ろうとした矢先、吉田が花子に話しかける。

「え? な、何……?」

「その……何か相談したいことがあったら、言ってね。僕達、力になるから」

 吉田がそう言うと、最初、花子はキョトンとしていたが、優しく吉田に微笑み、ニッコリと頷いた。

「ほら。良くわかんないこと言ってないで、行くぞ」

「え? あ、ああ。うん……」

 そして、俺と吉田は旧校舎を後にした。去り際にもう一度振り返ると、花子はこちらに手をヒラヒラさせながら微笑んでいた。

「ねぇ、白石君」

「あ? なんだ?」

「……あんな気が弱くて可愛い怨霊がいるかな?」

 吉田が眉間に皺を寄せて俺を見る。

「まぁ、いるんじゃないか。現にいるわけだし」

「え……まだ譲らないの?」

「譲らない? あのなぁ、吉田。言っただろ? アイツは花子さんなんだよ。少なくとも俺はそう信じている、って」

「はいはい……まぁ、彼女もたぶんそれでいいと思っているんだろうな……」

「ん? どういうことだ?」

「なんでもないよ……それより、ちゃーんと映画、撮らないとね」

「当たり前だ。お前もセリフとストーリー、ちゃんと考えて来いよ」

 吉田は苦笑いしていた。

 しかし、こうしてとにかく、俺達はようやく、『トイレの花子さん』を主役とした映画を撮り始めるために動き始めたのだった。

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