第23話 花子さんVS学校の怪談 その3

 俺がそういうとそれまで、便器の上にちょこんと座っていたオカッパの女の子は立ち上がり個室から出てきた。

「ほら、見ろ。どこからどう見ても『トイレの花子さん』だろうが」

 俺はそういって、花子の方を見る。花子はといえば、どことなく落ち着かない様子で目線を下に落としていた。

「え、あ……は?」

 黒沢が先程までの怖がりぶりはどうしたのか、急に目つきをきつくして花子を見る。

「あのー……どこが花子さんなんですか?」

「はぁ? 見て分からないのか? おかっぱだし……ほら、幽霊っぽいだろ?」

 しかし、怪訝そうに花子を見る黒沢の視線は変わらなかった。

「はぁ……先輩。その子、ウチの学校の今の高等部の制服を着ているじゃないですか」

「ああ、そうだな」

「『トイレの花子さん』はこの旧校舎の幽霊なんでしょ? それなのに、どうして今のうちの学校の制服を着ているんですか? おかしいでしょ?」

 黒沢は勝ち誇ったようにそう言った。しかし、俺は無論、そんなことをいわれても困ることはない。

「別におかしくはないだろう。『トイレの花子さん』といえば、トイレで亡くなった女の子っていうのが一般的な認識だ。最近ウチの学校の生徒が、この旧校舎のトイレで自殺を図ったとかなんとかそういう理由があるかもしれないじゃないか」

「はぁ? なんですか、それ……大体、幽霊にしても血色も良すぎるし、どう見ても生きている人間でしょ?」

「なんだ? 幽霊は血色が良くちゃいけないのか。それこそ、お前、幽霊は柳の下にいて目にたんこぶが付いているのが幽霊だっていう、ステレオタイプな考え方だろうが」

 黒沢は中々言い返すことができないようで、ぐぬぬと悔しそうな顔をした。

「黒沢ちゃん。白石君に屁理屈で勝とうなんて無理だよ」

「ええ、承知してますよ。そんなこと……じゃあ、花子さんに一つだけ聞かせてください」

「おお、いいぞ」

 今度は、黒沢は俺ではなく、花子の方に視線を向けた。黒沢に睨まれた花子は瞬時に黒沢から目を反らす。

「アナタは、本当に『トイレの花子さん』なんですか?」

「え、あ……そ、そう……です」

「へぇ。じゃあ、いつ生まれたんですか?」

「え……? い、いつ……?」

「そうですよ。元々は人間だったんでしょう? だったら、いつ生まれたかぐらいはわかるでしょ? ああ、後、いつ死んだかも教えてくださいね。できれば死因も」

「ちょっと……黒沢ちゃん……」

 制止しようとする吉田を無視して、黒沢は得意気な顔で花子を見る。

「さぁ、答えてくださいよ」

 黒沢の質問に、花子は戸惑ったようだった。そして、困ったように俺を見る。

「なんだ。答えられないのか?」

「え……?」

 俺がそう言うと、花子は面食らったようだった。

 さすがに俺だって、「トイレの花子さん」がいつ生まれて、いつ死んだのかなんて知るはずもない。

 だから、こればっかりは花子の答えによるものだ。

「あ、え、えっと……」

「なんですか? 答えられないんですか? じゃあ、アナタは『トイレの花子さん』じゃないんですね」

「ち、違う!」

 黒沢がそう言うと、花子は女子トイレに響く大きな声でそう言った。思わず俺も、そして吉田も黒沢も驚いて花子を見る。

 花子は顔を紅くして黒沢を見ていた。

「じゃ……じゃあ、早く応えてくださいよ」

 驚きながらも、黒沢は答えを促す。花子は少し戸惑っていたようだったが、それからしばらくしてもう一度、黒沢の事を見た。

「……覚えていません」

「……え?」

 そして、黒沢に向かってそう言ったのだ。

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