第22話 花子さんVS学校の怪談 その2

「え……」

 そう言うと、途端に黒沢は脅えた顔をした。

「なんだ? お前が言ったんだろう。花子さんなんていなかったんだろう、って」

「そ、それは……そうですけど……」

「だったら、確認しなくちゃいけないだろう? それでもし、旧校舎の四階の女子トイレの一番奥、四列目の個室に、花子さんがいたら、お前もこの映画の撮影に協力する。いいな?」

 不機嫌そうな顔で、黒沢は黙って、俺を見ていた。

「いいな? 黒沢?」

「……わかりましたよ」

 そういって黒沢も立ち上がる。

「でも……もしも、花子さんがいなかったら、ちゃんと美夏の希望した恋愛映画、撮ってもらいますからね」

 そういって黒沢は出て行った。

 部室に残されたのは俺と吉田だけである。

「……どうするの?」

 吉田が不安そうに俺に訊ねてきた。

「どうするって何を?」

「だからさ……あんなこと言っちゃって。いるかどうかわからないよ。花子さん」

「いるに決まっているだろうが。アイツは『トイレの』花子さんなのだろう? トイレ以外のどこにいるんだよ?」

 俺がそう言うと困ったように反応しつつも、それ以上、吉田は何も言わなかった。無論、俺だっていない可能性は考えた。

 だが、いる可能性だってある。だからこそ、俺はいる可能性に賭けてみたのである。


 そして、放課後。昨日と違い、まだ明るいうちから、俺達は旧校舎の前に立っていた。

「さて、行くか」

 相変わらず立ち入り禁止の看板を無視し、そのまま俺達は旧校舎の中に入った。まだ日があると言うのに、旧校舎の中は既に陰湿な雰囲気に満ちていた。

「あはは……まぁ、昨日よりは……こ、怖くないですね……」

 既に怖いと言っているのに気付いていない様子の黒沢は、引きつった笑顔を浮かべながらそう言った。

 そして、俺達はそのまま四階までほぼ無言で階段を上がった。

昨日と同じような経路で向かったので特に何事もなく、俺達は女子トイレの前にたどり着くことが出来た。

「ここだな。黒沢。今日は逃げるなよ」

「に、逃げたんじゃありません! あ、あれは……急な用事を思い出したんですよ!」

「黒沢ちゃん……さすがにそれは見苦しいよ」

 吉田にそう言われ、黒沢は顔を真っ赤にしたまま黙ってしまった。

「まぁ、いい。とにかく、このトイレの一番奥だからな。見とけよ」

 俺はそのまま躊躇うことなく、トイレの一番奥の個室へと向かっていった。

「あ」

 そして、声を漏らして思わずそこで立ち止まった。

「ど、どう? いた?」

 吉田の訊ねる声。俺はそちらを向いて、ニヤリと微笑んだ。

「居た」

「え?」

「え……う、嘘?」

 黒沢と吉田は目を丸くしてこちらを見ていた。

「嘘ついてどうする。ほら、花子出て来いよ」

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