第20話 トイレの花子さん その5
「じゃあ、今日はこれで帰るわ」
四階の女子トイレの前で俺達は花子にそう言った。
花子もそろそろ帰るといったので、俺達は送って行くといって四階のトイレにまで行ったのである。
「あ……うん……わかった」
「撮影始まったらまたここに来るからよ。ここでちゃんと待ってろよ」
「え……こ、ここで?」
「当たり前だろ。他にどこで待っているんだ?」
俺がそう訊ねると、花子は渋々頷いた。
「よし、じゃあ帰るか、吉田」
「うん。そうだね。来た時と同じように、白石君が壊したフェンスの穴を潜って帰るとしようか」
「……なんだ? その言い方は」
「なんでもないよ。さぁ、帰ろう。またね、花子さん」
吉田がそう言って手を振ると、花子も手を振り返していた。
「じゃあな、花子」
しかし、俺が言うと花子は顔を反らした。
なんとも愛想がない怨霊である。いや、むしろ、怨霊だから愛想がないのか……どっちでもいいが。
「……しかし、まさか本当に会えるとは思わなかったね」
旧校舎の廊下を歩きながら、吉田が俺にそう言った。
「まぁ、運が良かったな」
「そうだね……しかし、これからどうするの?」
「どうするって……映画、撮るに決まってんだろ」
俺がそういうと吉田はニヤリと微笑んだ。
「そう。楽しみだね……もちろん、僕も手伝っていいんだよね?」
「はぁ? おいおい、吉田。手伝うんじゃない。お前はメインで仕事をするんだよ」
「え? メインで?」
「ああ。脚本だ。セリフとストーリーかちゃんと考えて来い」
「……えぇ!? 僕が!?」
吉田は面食らったようで、目を大きく見開いて丸くしていた。
「当たり前だろ。どういう映画にするかは追って説明するからよ。まぁ、そのつもりで一つ頼むわ」
「もう……相変わらず強引なんだから……」
そういわれても俺は大して気にならなかった。
むしろ、今は興奮していた。とにもかくにも、俺は「トイレの花子さん」と会った。
正確には「トイレの花子さん」たる存在である。その存在を確保できたことは、俺にとってこの上なくモチベーションが上がる要因となった。
今ならばどんな映画でも取れる気がする……それこそ、アカデミー賞を総ナメできるような傑作映画だって簡単に取れるような気がしたのだ。
「よーし! 明日から頑張るぞ!」
「あ、あはは……こりゃ、大変だね……」
苦笑いする吉田は放っておいて、俺は、夜の学園内全体に響かんばかりの大きな声でそう言った。
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