第18話 トイレの花子さん その3
俺達が教室に戻ると、先ほどと同じように、花子が申し訳無さそうにしながら椅子の上にちょこんと小さくなって座っていた。
「待たせたな、花子」
俺は椅子を持ち出し、花子の向かいに座る。花子は不思議そうな顔で俺を見ている。
「とまぁ、お前が『トイレの花子さん』だということはわかった」
「え……わ、私……『トイレの花子さん』なの?」
「ああ。そうだ。違うのか?」
「あ……え、えっと……?」
花子は助けを求めるように吉田の方を見る。しかし、吉田は苦笑いして花子を見ているだけだった。
「そうなんだよな? 花子」
「え、あ……え、えっと……」
「そうなんだよな!?」
俺が思わず強めの口調でそう言うと、花子は涙目になりながら俺のことを見た。
「白石君……落ち着いて」
吉田がそう窘めるので、俺はなんとか落ち着いた」
「……すまん。で、お前は花子さんなのか?」
俺が今一度訊ねると、完全に怯えた様子ながらも、花子は小さく頷く。
「は、はい……」
そして、蚊がなくような小さな声でそう言った。
「よし! 言ったよな? 今、言ったよな?」
「うん。言った」
確かに今、目の前のオカッパ少女は自分のことを「トイレの花子さん」だということを認めた。これで、俺と吉田の目の前にいるのは「トイレの花子さん」ということになったのだ。
「よーし。いいぞ。で、花子。いきなりで悪いが、お前に頼みがある」
「え? な、何?」
「俺と付き合って欲しい」
「……へ?」
ずぶ濡れの女の子は目を丸くして俺を見ていた。しばらくの間、旧校舎の教室には沈黙が流れる。
「えぇ!?」
突然、花子が驚きの声をあげた。
「なっ……おいおい、デカイ声を出すな」
「あ……ごめんなさい」
「ったく……で、どうなんだ? いいのか? 悪いのか?」
「え、で、でも……わ、私……アナタのこと良く知らないし……」
「あ? 俺の名前は白石孝助。で、こっちは吉田乃絵瑠。俺達は聖彩学園の映画部のものだ。今回はホラー恋愛映画っていうのを撮ろうと思っていてな。お前にはそれに協力してもらいたいんだ」
「……ホラー……恋愛映画?」
「ああ、そうだ。で、今回はその目玉として、学校の階段としても有名な『トイレの花子さん』と付き合うってことにしたんだ。どうだ? 面白そうだろ?」
「あ……ま、まぁ……」
「だろ? だからさ、いいだろう? 俺と付き合ってくれよ」
すると、花子は目を反らした。そのまま恥ずかしそうにもじもじとしている。
「あっはっは! なんだよ、怨霊の癖に恥ずかしがるなよな? まぁ、その態度だといいってことなんだよな?」
「あ……え、えっと……ご、ごめんなさい」
「ごめんなさい? あはは! 吉田。ごめんなさいだってよ! ごめんなさい……はぁ!?」
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