第17話 トイレの花子さん その2

 吉田は苦笑いしながら、俺に言いにくそうに花子が花子ではないのではないか、などと言ってきた。

 俺はしばらく吉田を見る。

 そして、その後、花子を見る。それから、立ち上がった。

「吉田。ちょっと来い」

「え?」

「いいから。ああ、花子はそこで待て」

 そういって俺と吉田は教室から廊下に出る。

「……なんだって? アイツが人間だって言いたいのか?」

「え、あ……うん」

 吉田の言葉を聞いてから俺は大きく溜息をついた。

「……吉田。お前なぁ、仮にもオカルト研究会の会長なんだよな?」

「え? あ、うん……そうだよ」

「だったら、わかるだろ? いいか? じゃあ、逆に聞くぞ? アイツが花子さんじゃない

証拠はどこにあるんだ?」

「え……?」

「お前の言うとおり、アイツはウチの学校の制服を着ているし、俺やお前の目にもこれ以上ないってくらいにはっきりと見えている……だが、お前、花子さんをこの目で実際に見たことがあるのか?」

「あ、いや……ないけど……」

「だろう? つまり、幽霊やお化けなんぞは証明できないから面白いんだ。だから、アイツも例外じゃない。確かに、俺も人間かもしれないと思っていないこともない。だが、もしかするとマジでトイレの花子さんかもしれないとも思っている。で、俺は花子さんだと思いたい方に賭けているわけよ」

 俺がそういうとポカーンとした顔で吉田は見た。

 要するに俺は、トイレから出てきた少女を、花子さんだと思いたいのである。なぜなら、もし、今俺達が会っている少女がトイレの花子さんだとすれば、ホラー映画好きとしてこれ以上に光栄なことはないからだ。

「俺はアイツをトイレの花子さんとして扱う……というか、アイツはトイレの花子さんなんだよ!」

 俺がそう言うと、渋い顔で吉田は俺を見てきた。

「なんだよ。文句あるのか?」

「うーん……いや。まぁ、黒沢ちゃんには悪いけど、これで約束通り恋愛映画を撮るハメになると、白石君が嫌だよね?」

「……ん? なんだ、お前、それじゃあ俺が恋愛映画を撮りたくないから、アイツを『トイレの花子さん』に仕立ててあげているみたいな言い方じゃないか」

「え? 違うの?」

「ふざけるな! 俺は確固とした自信を持って、あいつを『トイレの花子』さんだと思っているぞ」

「うん。わかったよ。じゃあ、花子さんの所に戻ろうか」

 そうして話を終えた俺と吉田は教室に戻った。

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