リアン
私の本名は、リアン。リアン・ジーベルトと言います。平凡な家庭で育った平凡な青年でした。そんな私がどうして選ばれしものの案内人をしているかというと、一人の女性との出会いがきっかけでした。彼女の名前は上島綾子。そうです、夏目さまの母親の綾子さまです。彼女は貴女と同じ選ばれしものとして、この世界に彷徨って来たのです。彼女との出会いが全ての始まりでした。
アレは暑い夏の日のこと、いつも通りお気に入りの湖のほとりで読書をしていたとき誰かに話しかけられたんです。それが、綾子さまでした。
「私綾子、上島綾子って言うの。貴方の名前は?」
「リアン・ジーベルト、と言います」
「リアン、ね。よろしくね!」
第一印象は明るい少女、でした。見ず知らずの私にあんなに明るく接してくれたのは彼女だけでしたから。綾子さまは明るく、人柄もよくていつも彼女の周りは楽しそうでした。たくさんの人がいて、たくさんのものがあって。私とは大違い。
「ねえ、リアンはどうして私なんかと話してくれるの?」
「どうしてでしょうね」
「また、嫌な言い方!」
「ふふ、すみません。綾子さまと話すのが楽しいから、じゃいけませんか?」
「リ、リアンにしてはいい言葉ね。いいわ、暇だからお話ししてあげる!」
「暇、ですか。綾子さまはいつも暇なんですね」
彼女はいつもさみしそうだった。周りにはたくさんの人がいるのに、いつもさみしそうに笑って私と話をする。
私と二人っきりになれば、私なんかとって言う出だしでいつもこんなことしてて楽しい?やら、どうしていてくれるの?など聞いて来ました。
「リアン、私最近誰かにジッと見られてるのよ。すごく怖いわ」
ある日、彼女はそんなことを言った。最初は冗談だろうと思って、気のせいでしょうと答えた。だが、それから何日かたって彼女はまた言ったのだ。
「今度はね、変なものが置いてあった」
と、言ったのだ。変なもの?と聞き返せば、彼女は頷いて珍しく持って来ていたカバンから何かを取り出してそれを私に見せてくれた。
「手紙に、服、髪の毛、爪…」
渡されたそれを見たとき、私は彼女のいったことが冗談でも嘘でもないことに気がついたのだ。彼女は明らかに誰かに付け狙われている、と。いつも明るく笑う彼女は、目に涙を溜めて震えていた。そのとき私は彼女のことを私が守らなくては、と思った。
「綾子さま、心当たりは?」
「ない…」
「本当に?」
「多分…」
どうしてこんなことをされるのかも、彼女には心当たりはなかった。とにかく私は、彼女を家に連れて帰った。綾子さまの屋敷に帰してもいいと思ったが、白うさぎさんに話したら色々と面倒だと考えたからです。でも、それが間違いだとはそのときの私は知らなかったのです。
私の家に着いてから手紙や、髪の毛……彼女宛のものを隅々まで調べました。でも、犯人につながるようなものはありませんでした。髪の毛なんていろんな色があるんですから特定なんて出来ないし、爪に関しては彼女のものでしたし、手紙の文字なんて新聞などの切り抜きだった……とにかくこれを送ってきた人物は頭がいいのだ、と私は思いました。
「綾子さま、今晩は私の家に泊まっていっては?流石の犯人もここまで追いはしないでしょう」
私の家は、断崖絶壁のところにたっていたし、彼女の屋敷からは正反対の場所にある。見つけられるはずがないとそのときの私は信じていた。自分なら守りきれると自惚れていたのです。
「そうね、そうするわ」
綾子さまはニコリと笑って私の家に泊まることを決めた。そして、私が彼女の笑顔を見たのはそれが最後だった。
次の日、彼女を泊めた部屋に行ったとき…………部屋はもぬけの殻だった。
綾子さまは連れ去られたのだ。犯人に捕まってしまった。私は後悔した。もう少し策を練ればこうはならなかっただろう、と急いで白うさぎさんにそのことを話した。すると、彼はニコリと笑って大丈夫と言い切った。私は何が大丈夫なんだ!と彼に詰め寄りました。
「だって、綾子は僕のところにいるから」
そう、彼女を付け狙っていた犯人は白うさぎさんだったのです。綾子さまの付き人の彼が、犯人だった。犯人は捕まったから平気とでも言ったのだろう、とでも言ったのだろう。彼女をうまく彼の口車に乗せ自分の手元へ戻らせたのだ。私は腹がたって彼のことを殴り続けました。顔が腫れてしまうぐらいに、何度も何度も…。
そして、気がついた頃には血まみれの綾子さまを私が抱きかかえていました。丁度、そのときは大雨でした。梅雨の時期だったので、嵐で風が強くて大変だって騒いでたのをよく覚えています。
「アイツが選ばれしものに手を出した!」
白うさぎさんは大声で叫びました。突然現れた赤の女王の手下に私は捕らえられ、牢屋に入れられてしまいました。今思うと、白うさぎさんは私の存在が邪魔だったんでしょう。綾子さまと仲良くする私が、彼女が心を開いた私が、彼女に想いを寄せていた私の存在が邪魔だったんでしょう。
私への罰は、無期懲役でした。それを望んだのは綾子さまだと風の噂で聞きました。その噂とともに彼女がこの世界から消えたことも聞きました。青い月に願いを叶えてもらったそうです。私は牢屋の中で彼女の幸せを望んでましたから、元の世界へ戻れたことを心の底から喜びました。
それから何年も経った頃、そうですね。夏目さまがこの世界に来る一年ほど前、白うさぎさんが突然私の元を訪れました。
「あのときはすまなかった。君が良かったら、私の元へ来てくれないか?」
そういって彼は私に手を差し伸べました。私は最初は断りました。でも、彼の元へ行けば綾子さまのことが何かわかるかもしれない、そう思った私は彼の手を握って牢屋を出ました。
牢屋を出るときに私の顔と、名前は彼に全てあげてしまいました。だから、今の私はウリーなのです。リアンは、リアン・ジーベルトはもういません。この世界の何処にも。
夏目さま、私は貴女のことを愛しています。好きなのです。綾子さまの娘だからではありません。貴女自身をお慕い申してるのです。
だからどうか、私を貴女のそばに置いてください夏目さま。
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