はじまり(3)
……これは、なんだ?「お姉さん」を、白井さんが自分の感情を処理するために生み出した存在だとすると、他の生徒が同じ存在について書くのは、おかしい。……この先輩と白井さんの間で、この「お姉さん」を共有していたのだろうか?と考えるが、自分でその意見は否定する。白井さんの作文から伝わってきたのは、はっきりそうは書いていないけれど、病気でみんなと遊べない寂しさを誰かに言えない辛さ、だった。聞いてくれる先輩がいるなら、それを「お姉さん」に置き換える理由がない。もしくは、これは2年前に書かれたものだから、白井さんが、これをどこかで読み、参考にした?……2年前の文集を、わざわざ?どこかから見つけてきて?確かにそれだと一応筋は通るけど。……でも、僕の中では、僕らが学校にいたあの頃、この「お姉さん」という人外の存在が実在していて、それを素直に書いただけ、という意見のほうがなんだかしっくり来た。……ある日、僕が暗い教室で1人で読書をしていると、窓の外に「お姉さん」がいる。1人のときでないと「お姉さん」はやってこない。「お姉さん」はずっと笑いながら何も言わずただこっちを見ている。最初は笑い方が、にこにこ、だったのが、段々と、にたにた、になり、足場のないはずの窓の外で黙ったまま最後には口が裂けるほどに笑いながらどこまでも後をついてくる―――
「……ちょっと!」
「っ!!!何!!何!?」
「そんなびっくりしないでよ。また考え事?何度か呼んでも気づかなかったみたいだから。ごめんって」
肩を叩いてこちらに呼び掛けてくれていたらしい水原が、謝りつつ、僕を変な人を見る目で見ている。違うんだ。
「さっきから文集ばっかり読んで。本が好きなのはわかるけど、ここには読書しに来たんじゃありませんからね」
と伊藤もこちらをからかうような口調で話しかけてくる。けど、冗談にしてくれるほうが、僕が変な反応をしたことがまぎれるから、ありがたい。伊藤はそういう部分で気を使うことができるから、僕はそれを素直にすごいと思う。
「そんなに名文が眠っていたとは知らなかったな。形見分けはそれにするか?」
と三浦も乗っかってくるが、そういえばみんなは形見分け、何にするか決まったのか。ちょっと教えてほしい。なんだか、気を紛らわせないと、正直、今、めっちゃ怖い。ふすまがいきなり開いたりしたら、僕、泣いちゃうかもしれない。
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