はじまり(2)

 きっとその違和感は、付箋がなければ気づかない程度のもので。付箋の存在は、相模がそれを気にしていたということを示していた。でも、この程度で?その作文を読む限り、お姉さんは窓の外に立っており、何も話さない、ずっと笑ってこっちを見てくる、という特徴を備えているらしかった。けど、読み進むと、よく会うのが窓のところというだけで、どうやら通学路や家にも来ていた、ようだ。一緒に部屋で遊んだ、という部分があった。……これはあれじゃないかな、友達と遊びたいという欲求が生み出した架空の存在というか、白井さんはそういう形で自分の寂しさと折り合いをつけていた、という話なんじゃないか。確かにちょっと胸は痛むし、ごめんって思うけれど。何だろう、相模の父性が何か作用してこの作文にチェックを付けさせたのか。確かに不思議な話ではあるんだけど。


 そうして、文集に一通り目を通し終わるが、特に違和感を覚える部分はなかった。小4当時の相模の作文力が小学校低学年レベルだということがあらためてはっきりしたくらいだろうか。しかし、今の相模の本棚を見る限り、その後はるかな進化を遂げていたようだった。相模、有能。他の作文を見ると、三浦はしっかり、水原と伊藤は活動的な文章だ。活動的な文章って意味が分からないけど。キャラ的にはそんなに僕ら、変わっていないらしい。……そして、読み終えた後。隣の文集にも手を伸ばす。文集1冊を読み終えたことで、なんだか僕の中で作文読む感じの気分にスイッチが入った気がする。見せてもらおうか、2学年上の作文力とやらを。書いたのは同じ、4年生のときだけどね。……そこで、僕は再びおかしなものを発見する。再び、というか、なんというか。その作文集にも付箋がついていて、それは男の子の作文だったけれど、そこには。


「……僕の友達が最近もう1人増えました。窓の外に立っています。お姉さんです。いつもニコニコ笑っています。」

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