はじまり(1)
「友達のことを書きます。ぼくが仲がいいのは、さがみ君、三浦君、伊藤君です。さがみ君は、この前の予防注射のときに怖がって校庭まで走っていったのですが、徒競走のときとかより、そのときが一番足が速かったような気がして、すごいと思いました。でも、そのはやさを運動会でもっと出せばよかったのにとも思いました。三浦君は……」
……うわぁ。僕って全然成長してないね。しかし、注射事件は小学校4年生のときだったか。やはり文集にわざわざ書く程度には当時の僕には衝撃的だったらしい。共通の題名は「私の友達」。相模、三浦、伊藤の文章もあるが、僕のことも書いてくれていて結構嬉しい。っていうか、多分このころは水原、河原崎さんとはまだ友達じゃなかったのか。うーん、あんまり覚えてないな。5年生以降は仲良くしてたような気はするんだけど。懐かしく思って文集をめくっていると、付箋のついたページがあった。……白井?……誰だっけ?
「窓の外にいるお姉さんと最近よく会うようになりました。よく教室の後ろの窓のところに立っていて、何も言ってはくれませんが、私の話を何でも聞いてくれます。私の話を聞きながらずっと笑ってこちらを見てくれます。最近、病気のせいもあってみんなと遊ぶことが少なくなってきたけれど、代わりにすてきな友達ができました。だんだんと会えるのが増えてきたのがうれしい」
休み時間、薄暗い教室の中、一人で机に向かって本を広げている小柄な女の子の姿が一瞬フラッシュバックする。思い出した。白井さん。詳しいことは忘れたけど難しい病気にかかって、途中からクラスを休んで、そのまま亡くなった子だ。なんとなく、入院中に寄せ書きをみんなで書いたことを覚えている。結局そのまま戻っては来られなかったけれど。最後の方は、学校には来ていたけど休み時間はみんな外に遊びに出てしまっていて、一人で教室で本を読んでいたような、気がする。僕もたまに教室内で残って学級文庫を読むことがあったから、なんとなく、なんとなく記憶にあるけど。この作文を読む限り、きっと、みんなが遊びに行くのを引き留めるのは悪いと思っていたけれど、本当は寂しかったのだと思う。声をかけられなかったそのときの自分をまた、なんとなく申し訳なく思った。……ただ、気になること。4年生の時の僕らの教室は、確か3階で。ベランダがないから、窓の外に、人の立てるスペースは、ない。……このお姉さんとは、一体、誰だ?
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