第3話

 眠れない。ベッドに入ってから一時間以上経つというのに、まったく眠れない。部屋にはアイマスクが備え付けてあったが、何故か重く、使う気になれない。仕方なく、僕は洗面所で顔を洗う事にした。

 洗面台の上の照明だけつけ、顔を洗った。顔を洗い終え、ベッドに戻ろうとした僕は、違和感を覚えた。洗面台の鏡に映った僕の鏡像が動いていない気がしたからだ。念のため、もう一度鏡を見たが、そこに映った僕は、ちゃんと同じ動きをしていた。さっきのは気のせいだ。もう寝よう。

 僕はベッドに入り、目を閉じた。やはり、眠る事ができない。僕は、半信半疑ながらも、部屋に置いてあったアイマスク……という名のゴーグルを付けてみる事にした。重い。こんな物を付けて眠るなんて出来ない、なんて思っていたが、意外にも眠る事が出来た。


 どれくらい時間が経っただろう。ふと、目を覚ました。だが、そこはベッドの上ではなかった。ここは、遊園地?まさか、そんな筈はない。僕は確かにベッドで寝ていた。しかし、辺りを見回しても、ベッドは無い。僕の意思とは関係なく、体が前へ進んでいる。何かに乗っている感じはなく、自分の足で歩いている。そんな感じの目線だった。僕の体は観覧車の前で止まった。これが、殺人現場となった観覧車か。僕はゴンドラの中を調べている。あれ?血痕がない。拭き取ったのかな。でも、凶器のナイフには指紋が残っている。どうしてだ?

 僕の体はまた、歩き始めた。そして、ある人物の前で立ち止まった。

「あんたが今回の事件の真犯人だろ?石田貴子さん」

僕は何を言っているんだ?僕の意思とは関係なく、喋っていた。それに、口調も違う。

「石田喜和子に罪を着せ、自分は蚊帳の外。ほんと、双子って便利だよな」

双子?だけど、指紋は違うはずだ。

「何を言ってるの?凶器のナイフには喜和子の指紋がついていたんでしょ?双子と言っても、指紋までは同じにならないでしょ」

「喜和子の指紋が付いているのは、ごく自然な事だ。だって、あんたらの家にあった、果物ナイフなんだからな」

僕はどうしたんだ。意思とは関係なく喋っている。しかも、目の前にいる人物を挑発するような事、出来るわけがない。

「だったら、あたしの指紋も付いていて当然よね?」

「あー、面倒くせえな」

そう言って、僕は突然、貴子さんの胸座むなぐらを掴んだ。その瞬間、僕には何も聞こえなくなった。何かを言い争っている内に、貴子さんはその場にくずおれた。どうやら、決着がついたらしい。その瞬間、僕はまた、眠気に襲われた。

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