第31話 私、ダメだね

 私たちは、自転車に乗る気もおきず、お互い無言で自転車を押して歩いていた。

 昨日まで一緒に遊んでいたタローの亡骸なきがらを見て、悲しさより申し訳なさが先に立った。


 私たちは、モトキチに対する判断が甘かったんだ。

 トイレを覗くような変態、容赦ようしゃなく警察に突き出せばよかった。

 そうすればタローは死なずに済んだのに。

 見ると菅谷も同じ気持ちらしい。眉間に苦渋の皺が刻まれている。


 そうだ、タローがいなくなったら、小鹿野さん、あの家で本当に一人ぼっちになっちゃうんだよ。

 どうするんだろうこれから。どうなるんだろう……。


 2人とも足取りが重い。押している自転車がすごく重く感じる。

 後悔が私たちを押しつぶそうとしていた。

 ごめん、タロー。ごめん、小鹿野さん。本当にごめんなさい。


 結局、2人とも、私の家の前まで自転車押して歩いてきた。

「私、ダメだね……余計な事しちゃった。結局、小鹿野さんひとりに、しちゃったよ……」

 菅谷との別れ際、やっとの思いでこれだけの言葉を口にした。

 菅谷は無言のまま聞いていた。


 帰宅して、ただいまの挨拶も苦しくて言えず、自室に着くなり床に崩れ落ちてしまった。膝をかかえて耐えたが、ガマンしきれず泣いてしまう。

 泣くな、私、小鹿野さんはもっとツライんだぞ! 泣くんじゃない!


 それから30分も過ぎたころ、いきなりケータイの着信が鳴った。

 菅谷からだ。

「三宅! マズイ! 小鹿野の家に戻るぞ、来てくれ!」

「どうしたのいったい!」

「説明する余裕がない! 俺は今から出る。頼む、来てくれ! お願いだ!」

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