3章

第26話 大丈夫か

 私はママへの説明もそこそこに家を飛び出した。そこで時間を費やすのは無駄だし、なにより小鹿野さんが心配だ。

 それでも菅谷には先にメールで連絡しておいた。大丈夫、あいつなら絶対に来る。

 私は自転車を飛ばして小鹿野さんの家に向かった。

 遅い時間だけどまだ空は明るいままだ。6月も下旬だから陽は長くなっている。


 小鹿野さんの家に着いた。インターホンで着いたことを伝えて玄関へ向かう。

 玄関の引き戸を小鹿野さんが開ける。手にはを持ってるけど、小鹿野さんが持っていても迫力ないなあ。足元に待機しているタローの方がよっぽど頼りになる。

「大丈夫? ま、タローがいるから大丈夫か」

 任せとけ、と言わんばかりに尻尾をパタパタと振るタロー。

 ほどなくして菅谷の自転車も到着した。

 いつもより怖い顔して、玄関をくぐるなり菅谷は言った。

「説明してくれ。できる限り詳細に」


 小鹿野さんの話を要約すると、だいたいこんな感じだ。

 最近、小鹿野さんの行く先々で、同じ人間の痕跡を感じていた。小鹿野さんの「読み取る能力」は、2日過ぎると「匂いが薄くなる」ので詳細は分からなくなってしまうらしい。

 初めは、駅や学校近辺で、同じ「匂い」を感じたため、生徒などの学校の関係者だと思っていた。その「匂い」の持ち主は、時間が経っていてはっきりと特定はできないが、小鹿野さんの記憶にある人物のような気がしていたため、余計にそう感じた。

 それが、地元駅前の駐輪施設、本屋、商店街と、生活圏内で多く感じはじめ、ついに今晩、この家の門前ではっきりと感じたのだと。


「私ね、あくまでも手とかで触れたものからでないと感じることができないの。門柱の郵便受け、いつもは内側の扉を触るから今まで気づかなかったけど、今日はたまたま、帰った時に外側の投入口に触れたら……」

 確かに内側、敷地内に入ったら、タローが黙っていなかったろう。


 腕を組んで聞いていた菅谷が提案する。

「まず警備会社に連絡して、この家に警報装置を設置するよう依頼すべきだと思う」

「それよりも警察に連絡したら?」

「無理だ、証拠がない。小鹿野さんの能力の存在を、警察が信用するわけがない」

 うーん、そーか、そーだよな。


 でも小鹿野さんみたいな人に、恨みを持つ人っているのかな?

 美人だからストーカー被害に遭うというのは判るけど……。


 苦渋の表情で、菅谷がつぶやく。 

「すまない、俺の責任だ。俺が、本吉を警察に突き出していれば、こんなことには……」

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