第22話 まあ見てなさいって

「題して、『小鹿野さんを人気者にする計画』」

「そのままだな」

「っさいわね、まあ見てなさいって」


 あれから数日、私はあれこれ考えて、菅谷にも相談して、無理なく目立たない「能力活用計画」を立ち上げた。

 肝心の小鹿野さんも、これなら大丈夫だいじょうぶと言うので問題ないはず。たぶん。


  トランプ占い なんでも相談承ります

  1-C 小鹿野蛍子


 放課後の廊下に、こんな張り紙を出してみた。

 さー、どうなるかな。ワクワク。


 誰もいない放課後の教室。

 私と小鹿野さんだけ。

 うーん、ヒマだ……。

「あの……」

「なに小鹿野さん?」

「私の名前、書く必要あったんですか?」

「何言ってんのよ! 小鹿野さんの名前出さないで誰が何をやるって!」

 思わずビクッという感じで身をすくめる小鹿野さん。ゴメン、ちょっと言い過ぎた。


 窓の外から聞こえる運動部の掛け声も、少なくなってきた。


「誰も、来ませんね」

「そーだねー、こないねー」

「このまま、誰も来てほしくないなあって」

 ダメだこのコ、はやく何とかしないと。


 突然、教室の扉が開いた。

 女子生徒が1人、張り紙を持って立っている!

 でも、正直、あんまり来て欲しくなかったタイプだ……。

 ロールにした茶髪、やたら短いスカートに開いた胸元と濃い化粧、「ありえなくね?」が口癖の、見たまんまギャルの竹中さんだ。

「こ、れ」張り紙ヒラヒラさせて竹中さんが言う。

「はぃぃ」消え入りそうな声の小鹿野さん。

「これマジ? だったらさ、アタシがナニ占ってほしーか、まず当ててみ?」

 どこかで聞いたようなセリフだ。うー、イヤなセリフだったんだな。

「わ、私も横にいるけど、いいかな?」自分で立案しといて不安になってきちゃった。

 小鹿野さんの顔を見る。その目は「大丈夫、やってみる」と言ってる。よし、練習したもんね。大丈夫だよ小鹿野さんなら!


 竹中さんを椅子に座らせて、小鹿野さんは机をはさんで向かい側に座り、取り出したトランプをシャッフルする。

「まず、カードを5枚取ってください。こちらには見せないで。そのうちの1枚を選んでください。まだこちらには隠しておいてください」

 いいぞ、その調子!

「そのカードに、あなたが知りたいことを念じてください。そしてそのカードを伏せたまま、カードを全て戻してシャッフルしてください」

 小鹿野さんはシャッフルして戻ったトランプの束を、またシャッフルして、机に裏返しにしたまま並べ始める。

 なんか心配になってきた。心臓がドキドキしてくる。

 裏返して並べたトランプの上を、指でなぞる小鹿野さん。そして指先が止まったカードを、次々と5枚ひっくり返す。

 竹中さんの驚いた顔!

 そのうちの1枚を手にした小鹿野さんが思わず

「ワンちゃん?」

 途端に真っ赤になるギャル竹中。

「あああアンタいつまでここにいるんだよ! とっとと出てけ!」

 ものすごい剣幕で私だけ教室を追い出された。

 扉が閉まる直前、教室に残った小鹿野さんの眼が「大丈夫だいじょうぶよ」と言っていた。

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