第20話 どうする?
「本吉、泣いてたよ」
菅谷がオイルサーディンを箸でつまんで言った。あ、それニンニクが効いててスゴク美味しかったんだ! 全部食うなよ!
「本吉が言うには、最初は、目的が違ってたらしい」
ふんふんなになに? 私は小鹿野さんが長時間煮込んだ豚の角煮を口に頬張る。うーん絶品!
「本吉は人の名前と顔を覚えるのが極度に苦手で、そのため、ドライブレコーダーのように自分の服にカモフラージュカメラを着けて仕事していたんだそうだ。それが上手くいったので、どうせバレないならと、カモフラージュカメラの悪い使い方に手を出してしまった」
あ、そ、ふーん。しかしトイレはないよなトイレは。せめて更衣室とか、いやそれもダメだけどさ。パンチラ狙うくらいならまだ可愛げもあるのに。いやーん、このマリネも最高!
「『こちらには、設置直後のカメラに写った先生の映像が入っているマイクロSDがあります。証拠としては十分すぎると思います。でも先生を脅すつもりはありません。ただ、責任はとってほしい。最後まで先生でいてほしい。こちらも保険としてデータは他に預けてますが、先生がデータを破壊し、責任を取ってくれたら、その段階でこちらもデータは破壊します』そう伝えたら、納得してくれたよ。目の前でノートPCを叩き壊したのには驚いたけどな……って、しかしお前よく食うなあ。話聞いてたのか?」
「もちろん聞いてるよ。あ、小鹿野さんスープお代わりある?」
「ところでさ、これ、どうする?」
満腹になって幸せな気分に浸っていたけど、思い出したので問題提議してみた。
爪の先ほどの大きさの、マイクロSD。
学生証の裏にテープで貼って隠していた。
保険のために複製したデータは、USBメモリに入れて小鹿野さんが持っている。
モトキチは学校も辞めた。一般の生徒はその理由を知らない。たぶん先生方の大半も知らないだろう。モトキチは約束通り責任を取った。もうこのデータを持っている意味はない。
「でも、菅谷、あんたホントはコピーしておきたかったんじゃない?」
下を向いて少しはにかんで菅谷は答えた。
「正直に言う。見てみたい。でも見たくない。見たいのは本能、見たくないのは美意識だ。俺の中では美意識が勝ってる。だから見たくない」
今気づいたけど、菅谷もウソがつけない人間なんだと思った。だから小鹿野さん、菅谷も受け入れているのかな?
土間に下りて、菅谷がペンチでマイクロSDを、ハンマーでUSBメモリーを潰した。
人1人の人生を狂わせたデータであると考えると、あっけなさ過ぎる最後だ。
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