2章

第19話 まかせといて!

 5月も終わりに近づいたある日、私と菅谷は小鹿野さんの家にやってきた。

「乾杯、と言うにはちょっと問題があるが、とにかくお疲れさま」菅谷の一言を合図に、私たちはウーロン茶で乾杯した。

 ちゃぶ台には、小鹿野さんの手作りの料理が所狭しと並んでいる。

「ちょっと作りすぎちゃったかしら」

大丈夫だいじょうぶ、全部食べるからまかせといて!」

 タローも肉が多めのエサをもらってご機嫌だ。尻尾の振り方がいつもより激しい。でもこっちを見るその顔は明らかに「残してもかまわんよ」と語っている。


 盗撮には盗撮を。

 私たちが実際に取った策は次のようなものだった。

 動画撮影モードにした状態のスマホを手にしたまま、私が問題の女子トイレに入り、個室でメールの確認をしてる振りをしながら、問題のフック型カモフラージュカメラを撮影した。撮影された映像を見ながら、菅谷がネットで販売されている同型機種を特定し注文。そして菅谷が動作特徴を自宅で確認し、メッセージのデータを作成。

 その後、私がそのデータの入ったマイクロSDを持って女子トイレに入り、カモフラージュカメラ内蔵のマイクロSDと交換した。その時、カモフラージュカメラの撮影機能をオフにすることも忘れなかった。


 その日の夜、本吉が内蔵のマイクロSDを交換した後、中の映像を確認したときは、どんな顔をしていたのだろう。

 そこには菅谷を映した動画が入っていたのだから。


本吉先生、連絡ください

データは僕と他数名で保管しています


 と、書いた紙を持つ菅谷の映像が……。

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