第18話 やっぱそう思う?

 小鹿野さんの家を出た私と菅谷は、自転車のライトを点けて帰り道を急いだ。

 もう晩御飯の時間で、あちこちの家の灯りから美味しそうな匂いが漂ってきてる。

 帰る道は来る時と違って県道に出ない。小鹿野さんは知らなかったと思うけど、小鹿野さんの家の近くの路地を、ほぼまっすぐ行けば私の家だ。直線距離にするとすごく近い。市の境界を挟んでいたのでお互い知り合うことが無かったけど。

 日中は自転車を走らせると汗ばむくらいだったのに、日が落ちるとさすがにまだ寒いかな。

 ……と、自宅近くで私は自転車に急ブレーキをかけた。耳障りな音をたてて自転車が止まる。「どうした?」という顔で菅谷も止まった。

 この前まで更地さらちだった、昔進学塾があった土地。そこにロープが張られ、すでに工事が始まっていたらしく建物の土台が作られ、建築資材が運ばれていた。

「何が建つんだろ?」

「アパートだな」こともなげに言う菅谷。

「なんで分かるの?」

「そこの建設業許可票に書いてある」

 あ、ホントだ。

「三宅、お前はもう少し周りを見た方がいい」

「あ、やっぱそう思う? いやー、気にはしてるんだけどねー。どうもこう、すぐカーッとなって突っ走っちゃったりして……」

「三宅……お前はバカだ」

「なんだと!」

「バカだが、正しい。直観とか感情に正直というのも良いことなのかもしれないな……。俺は、お前がうらやましいよ」

「バカにしてるの? ホメてるの?」

「さあ、どっちなんだろう。俺もわからない。俺は、直観といいながら実は好き嫌いだったり、分析したつもりで思い込みで動いていたり、そんな愚かしい間違いをしたくないから、できる限り論理的に考え動くようにしていたんだが……お前を見ていて判らなくなってきた」

「へー、菅谷でも迷うことあるんだ」

「そりゃ迷うさ」

「乙女の色香に?」

「どこに乙女がいるって?」

 私はもう一度菅谷の手に噛みついてやろうと思ったが、それよりはやく菅谷が身をかわして自転車にまたがった。

「じゃあな三宅! 明日は頼んだよ!」

 逃がしたか。次は蹴りくれてやる。

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