第17話 また来るから!

 私たちは菅谷の出した案を基に、実行の観点から幾つか意見を出し合って、だいたいの計画を固めた。さっそく明日から動くことにする。連絡が取りやすいようにお互いのメールとケータイの番号を教えあった。信用してた担任に対する怒りと失望と嫌悪感、それを上回る罠を仕掛ける側のワクワク感、二重の秘密を共有する3人の共犯者意識、ちょっと楽しくなってきちゃった。

 菅谷と2人、明日学校で会ってもいつも通りにして、でも何かあればすぐにメールなどで連絡を取ろうと約束する。


 もう外は陽も落ちて、暗い紺色の空には星がまたたきはじめていた。

 自転車を押して敷地の入り口まで向かうと、小鹿野さんを追い越してタローが尻尾振ってお見送りにきてくれた。

「じゃね、さようならタローくん。小鹿野さんをよろしくね」

 鼻でフンと息をするのが返事だった。「わかってるよ」とでも言いたげだ。

「あとで、メール、するから」小鹿野さんが少しさみしげに言ってきた。私は小鹿野さんが何を言いたいかわかった気がする。この家で誰かと会話したのは、しばらくぶりなんだ。

「じゃ、小鹿野さん、また来るから! 今度何かご飯作って!」

「もちろんよ! 3人で食べましょ!」

 よかったな菅谷、人数に入ってたぞ。

 菅谷が小鹿野さんに質問した。

「ところで、どうして『能力』の事を話す気になれたんだ? あんな理由があったとは思わなかったからこっちも訊いてしまったが、適当に誤魔化ごまかすというやり方もあったと思うんだが」

 周りは暗くなっているのに、そこだけスポットをあびたかと思うくらい小鹿野さんの表情が明るくなった。

「ゴメンね、私の手を握った三宅さんの手から、三宅さんの気持ちが伝わってきて、それですごく勇気をもらったの!」

「えー、私の気持ち読んでたんだ!」悪い気はしないけどね。

「だって、三宅さんの気持ちって、『読み取る』なんてものじゃなかったのよ。手に触れた途端、まるで目の前のスピーカーから大音量で流れてくるみたいな感じで……。三宅さんの思いはね、影が無くって強くって真っ直ぐで、すごく頼もしくて、タローとよく似てた!」

 それ聞いて、喜んでいいのかちょっと複雑な気分になった。

 菅谷が私の肩にポンと手を置いて言った。

「よかったな、犬は賢いんだぞ」

 私はその手に噛みついた。

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