第12話 ダメだなあ

「三宅さん、お茶れなおすから、こっち戻ってきて」

 背後のガラス戸の向こうから小鹿野さんの声がする。

 私は土間に面した板の間に、膝を抱えてうずくまっていた。

 あーあ、またやっちゃった……。

 女の子らしくなりたいって、あれほど思ってたのに。

 小鹿野さんみたいに、仕草の端まで可愛くなりたい、そう思ってたのに。

 どうして私って、こんなガサツなんだろ……。

 ダメだなあ、ホント……。


 気がつくと、タローが目の前に座ってこっち見てる。あれ、さっきと違って尻尾振ってるじゃん。

 タローは立ち上がると近づいてきて、私が座っている板の間に両前脚を載せて顔を寄せてきた。そして私の顔をペロリと舐めた。

 あんた、ひょっとして慰めてくれてるの?


「ビックリした! タローが初対面の人になつくなんて初めてよ!」

 後ろから小鹿野さんの声がした。お盆に新しいお茶を載せている。

「やっぱり犬には分かるのよ」

 何が分かるのか分からないけど、信用してくれているのかな?

「タローはね、他の人には絶対なつかなかったの。エサも私とお婆ちゃんから出されたもの以外は絶対に食べないくらい頑固なのよ。お婆ちゃんが言うには、子犬のころから私の家族以外からのエサは絶対食べなかったんだって。警戒心が強いのかもね。だから私が留守にしたら何も食べなくなるから心配になっちゃう」

「え? お婆ちゃんがいるんでしょ?」

「亡くなったの、先月」

「ウソォ! あ、ゴメン。じゃ今この家は……」

「そう、私ひとり。あ、タローもいるけどね」

 あらためて小鹿野さんの顔を見直して、この家を見回す。広い土間、広い敷地、太い柱……。この広くて古い造りの大きな家に、小鹿野さんはひとりぼっちで暮している……。

「部屋に戻ろうよ」

 小鹿野さんに促されて、私は腰を上げた。

 こっちを心配そうに見上げているタローの頭を撫でてあげる。

 ありがとうね、大丈夫だいじょうぶだよ。

 あんた、そうやって小鹿野さんをずっと守ってきてたんだね。

 これからは私もいるから。

 タローはひときわ大きく尻尾を振った。通じたのかな?

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