第9話 もっとちょうだい

「小さいときはね、この家にはパパとママもいたの。お婆ちゃんとタローもね。でも、私が幼稚園の時、パパとママがケンカして、ママは私を連れて別の家にいったの。でもしばらくしたら、ママは私をこの家に置いてどこか行っちゃった……。

 私、毎日泣いてばかりいたの。パパとママはいつ迎えにくるのって、いつもお婆ちゃんに訊いて泣いてばかりいたの。タローだけが私の友達だったわ。

 私、幼稚園もあまり行かなくて、小学校も最初のうちはあまり行ってなかったの。お婆ちゃんが行かせないようにしてたのね。お婆ちゃんは代わりにいっぱい昔話を読んでくれた。鶴の恩返しとか、信太の狐とか、龍の子太郎のお話とかね。その意味がわかったのは、8歳くらいかな。

 私ね、何かを触るとね、その持ち主の気持ちとかが判っちゃうの。」


 小鹿野さんは、そこで一息ついて、また話し出した。


「パパとママが別れる原因となったのも、私が何気なく話した事が、どうもパパの浮気に関してだったみたい。あとお金の問題もあったみたいね。パパはお婆ちゃんの会社の経営を継ぐ前提で働いていたんだけど、会社のお金を勝手に使っていたみたい。それも女の人に。

 パパが秘密にしていた事を私が喋っちゃったから、大ゲンカになって離婚しちゃったみたい。パパもこの家に居づらくなって、どこか行っちゃった……。

 でもその後、ママが秘密にしていた事も私が喋るようになって、ママの方も男友達と何か揉めたみたい……。

 で、『こんな気味悪い子は要らない』みたいになって、ママがお婆ちゃんとケンカして、そのままどこか行っちゃった……。

 後になって教えてもらったけど、お婆ちゃんのお婆ちゃんも、私みたいに触った物から何かを読み取る力があったんだって……。でも戦争があって、そんな能力の人が生まれなくなったので、お婆ちゃんもすっかり忘れていたんだって……。

 お婆ちゃんは昔話を引き合いに出して、この能力のことは秘密にしなきゃダメだよって、いつも言ってた。喋るわけないのにね、だってこの力のせいで、パパとママは出て行っちゃったんだもん……大丈夫?」

「大丈夫……でもティッシュもっとちょうだい」

 鼻をかみすぎてポケットティッシュを使い切ってしまった。だって泣けるんだもん!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る