第40話 どこまでいった?

 新学期の始業式が行われるので講堂に移動した。

 校舎内を移動の最中、クラスとは比較にならないほどの好奇と羨望せんぼうと同情と崇拝の視線が、小鹿野さんや菅谷を包囲しているのを感じた。

 眼鏡の奥で完全に表情を消してる菅谷はともかく、本来目立つことが苦手な小鹿野さんが感じているプレッシャーは相当なものだろう。以前の小鹿野さんなら耐えきれないはずだ。

 移動中、私の手を強く握りしめる小鹿野さんの手から、その緊張感が伝わってくる。


「ヨッ! 大変だったな!」

 いきなり背後から大声かけられ振り向くと、ギャル系の竹中さんがいた。

 いや、もうギャル系じゃないねこれは。スカートの長さも普通になり、化粧もケバくなくなった。まるで別人のようだ。

 必要以上の大声は、竹中さんなりの気遣いだろうと私は理解した。こっちも大声なら負けてない。

「なによ竹中さん、見た目ずいぶん変わったじゃない。この夏何かあったの?」

「ば、ば、ば、馬鹿野郎! 声がデケェんだよ!」

 真っ赤になって怒鳴る竹中さんは、口調ほど目は怒ってない。背後から私たちの間に割り込み、両腕で私たちの首に手をまわし、2人まとめてギュッと抱き寄せてきた。

「つまらん連中は気にすんなよ。何かあれば何時でもいいな」

 さっきとはうって変わって囁き声で言った。なんだよムチャクチャいいヤツじゃない!

「ありがと……」小鹿野さんが小声で礼を言った。囁き声なら負けてない。

「礼を言うのはこっちだよ。あんたのお陰でこの夏休み充実しててさあ!」

「へえ! どっか行ったの? つかさ、どこまでいった?」

「んー、ちょっと、彼氏の部屋まで……」

「「えー!」」小鹿野さんと2人同時に大声出してしまった。

「それで? どうだった?」質問する声につい熱がこもってしまう。

「おうよ、そりゃもう準備万端整えて行ったわよもちろん、言えないところも整えて」

「それから?」小鹿野さんも顔真っ赤にして質問する。

「……よく似た妹さんが2人もいてさぁ、気に入られたのはいいんだけど、ずっと一緒にいて、いつ行っても全然離れてくれないんだよねぇ」

 3人そろって爆笑した!

 なんでも妹2人の宿題までみてあげたみたいで、そのため向こうのお母さんにも気に入られたんだとか。すごいな、親公認かよ。

「でもね……何もなかったわけじゃ、ないのよ……」

 おお、意外な告白!

「妹さんたちが部屋を離れたすきに、チュッて……」

 目を伏せ頬を染めてつぶやいた竹中さんは、女の私が見ても美しかった。

「やったね! これで私たち3人同じじゃん!」

 ついガッツポーズをして口に出してしまう。

 途端に真ん中の竹中さんが、私と小鹿野さんの顔を見比べる。口に両手を当てて顔を真っ赤にしてる小鹿野さんと、「ヤベ」と思っている私の顔を、首を左右に振って確認して……

「三宅さん、別に話あわせなくてもいいんだよ」

 ちょっと、そんなに意外かい!

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