第35話 仕方なく……

 8月も残すところ10日を切った。

 外から子供たちの遊び回る声が聞こえてくる。

 でも、私は宿題の山を抱えて頭も抱えているのだ。


 つか、やっぱり宿題多いよ。泣きたい。


 私は目の前で宿題の英文リーフレットの和訳作業をしている菅谷に声をかけた。

「あのさ、私たち期末試験受けられなかったんだよね」

「ああ」

「だから、宿題多いんだよね」

「ああ」

「小鹿野さんごめんね、それって小鹿野さんの事件があったからだよね」

「ああ、正確に言えば、お前はついでだ」

 この野郎! と思ったが、口には出さないで、問いかけを続ける。

「だからさ、なんだっけ? PTSDだっけ? 事件の影響で宿題どころじゃなかったって言い訳できるかなって……」

「お前なあ! それだけ真っ黒に日焼けしといて、そんな言い訳通用するわけないだろ!」

 すぐ横で、小鹿野さんが困った顔で笑ってる。

「うう……プールは心の平安を取り戻すために仕方なく……」

「お前が調子に乗って大量の写真をツイッターにアップしなけりゃ、そんな言い訳もあるいは通ったかもな」

 カナヅチ菅谷め、プールに無理矢理付き合わされて、泳げないのを散々からかわれたのを根に持っているな。人間の器が小さいぞコラ。


 こうなれば最終手段。

 和訳作業に集中している菅谷に気づかれないよう、すぐ横にいる小鹿野さんの手を握り、強く念じる。

(お願い、写させて!)

 ビックリした顔で私の顔を見る小鹿野さん。

 しょうがないわね、という無言の笑顔で応えてくれた。やったね!

 よし、これであと2日は遊べるかな?

 あ、ごまかし効かない読書感想文と水彩画があったか。でも9月1日提出じゃないし、まだ大丈夫だろう。

 うん、安心したらお腹空いてきちゃった。

「何か食べる?」

 あ、まだ手を握ったままだった。

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