テガミ
蒼原悠
プロローグ。
序章
つらいとき。
悲しいとき。
いつも溜め込んでいる自分がいた。
つらい気持ちも、悲しい気持ちも。
何もかも自分の内に閉じ込めて、気丈に振る舞っている自分がいた。
怖かった。
本当の自分はとても弱くて、脆くて、儚い。
その事実を周りに知られるのが、怖かった。
本当の自分は、仮面の裏に隠し通して。
いつでもいい人の顔をして、キャラクターを作って生きてきた。
どんな場所でもそれは変わらなかった。自分が、いる限りは。
だけど人間、限界は何にだってある。
ある日、我慢の堤防が唐突に決壊して。
見せたくない、隠しておきたかった嫌な自分が、みんなに露呈した。
周りはみんな、驚いたように目を丸くした。
やがて、言った。「やっぱり、そうだったんだ」って。
嫌われてしまえば、一瞬だ。
みんなはあっという間に離れて行った。
独り暗闇の中に座り込んで、関係の崩壊を見ていることしか出来なかった。
そんな中からもまた、暗い感情が沸き上がってくる。
このままではまた、悪循環だ。直感で、そう思った。
また、生きる場所を変えるのか。
また、逃げるのか。
そんなの嫌だ。
自分のままで、ありのままで生きられる場所が欲しい。
この荒れ狂う心を鎮める方法が、欲しい。
心の奥深く、見えない自分が泣き叫んだ。
その時、視界に入ったのは。
一本の鉛筆。
一枚の白紙。
それだけだった。
それはケータイのように誰かと繋がるモノでもなければ。
聖書や啓蒙書のように、疲れた心を癒せるモノでもない。
何の変哲もない、ただの紙と鉛筆。
鉛筆を手に取り、ふと考える。
これは、どう使うものなのだろう。
なぜ、人はこんなものを開発したのだろう。
世界中でたくさんの人たちがこれを使っているのは、なぜだろう。
そう疑問に思ったとき。
初めて少し、未来が開けた気がした。
今、自分にできること。
それは、心の奥に溜まったその気持ちをこの紙に吐き出しぶつけ、
カッコ悪くていい。
きれいじゃなくていい。
最悪、読めなくたっていい。
溜まり続けたこの思いを、少しでいい。解して、溶かして、流すことが出来るなら。
誰も傷付かずに、笑って暮らしていけるなら。
そのために、この紙と鉛筆があるのなら。
五十通りの平仮名と片仮名と、何万もの漢字。アルファベット。
この世に生まれた言語の全てが、今は味方になってくれるのだ。
才能なんて要らない。思いの丈を、ただ真っ直ぐに────
「9月23日
今日、嫌なことがあった。」──────
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