第八章 袖振り合うも多生の縁
第28話 アンドロイドは見知らぬ青年に助けられる
背後に迫る足音を聞きつつ、角を曲がる。大通りの出口にはこちらに背を向けた大人の男性の姿がいくつも見える。
幸い、こちらには気がついていないようだ。
この場を切り抜けるには、もはやこの姿を現した上で地下に潜るしかない。
無事、彼らが何もせずに通してくれれば、の話だが。
と、どこかで扉が開く音がした。
今歩いているのは高い塀の側で、反対側には扉はあるが塀にはない。
おそらく反対側の建物の住民が鬼ごっこに参戦したのだろう。
心を決めた以上、もう振り返ることはしない。誰が見ていようともはや関係ない。
が、左肘を掴まれて私は足を止めた。
「こちらへ。……王子」
振り向くと、壁の一部が開いて赤いセーターの肘だけが見える。かけられた声からは、若い男性だろうと推測する。
「私は……」
「まわりに気がつかれる前に急いで!」
叱咤するように声が飛んでくる。
これは助けなのだろうか。それとも賞金狙いの新しい形だろうか。安心させておいて突き出すようなパターンの。
だが、少なくとも前と後ろの追手からは身を隠せる。
私は迷いながらもその手に引かれ、隠し扉に飛び込んだ。
◇◇◇◇
扉の向こうで男が喚いているのが聞こえる。言葉までは聞き取れないが、かなり激昂しているようだ。
私はひとつため息をつくと、振り向いた。引き込まれた場所はかなり暗く、ランプが要りそうなくらいだ。視界を暗視モードに切り替える。
すぐ近くに立っているはずの赤いセーターの青年は緊張した面持ちを崩さず、私を見ていた。
「ありがとう、助かりました」
「いえ。……祖父母から頼まれただけですから。こちらです」
小さなペンライトで足元を照らして、男は行く先を照らした。足元は少し歩いた先から階段になっている。
場所から考えるとあの高い塀の中のようだ。
「声は出さないでください。外に聞こえると厄介ですから」
「分かりました」
青年は階段を降り始めたので私もその後を追う。
狭い階段は登ったり下ったりをランダムに繰り返していた。もしかしたらこれは抜け道というものだろうか。
今の私は王城からはそれなりに離れた地点にいるはずだ。それなのに、こんな抜け道があるということは、このあたりは縦横無尽に抜け道がもともとあるのかもしれない。
繋がったままのネットワークで王城と城下町の成り立ちを調べると、案の定、旧市街地には王城への秘密の入り口がいくつも残っているという情報が見つかった。
観光星として発展し、歓楽街や観光街ができたあたりを新市街地と呼び、それ以外と区別している。
抜け道については通常は閉鎖されていて、市井の者が利用することはできないとある。
では、今目の前でこの通路に私を引き込んだ存在は、誰なのだろうか。
小さな光を頼りに歩いて二十分は経っただろうか。
案内役の青年は不意に立ち止まると振り返った。
「すみませんが僕の祖父母に会ってやってはいただけませんか」
「……構いませんが」
「ありがとうございます」
青年はもう少し進んだところで左手にあった鉄の扉を押し開いた。あとをついて扉をくぐると、どうやらそこは食料庫のようだった。コーヒー豆のいい匂いが鼻孔をくすぐる。
この部屋自体が低温庫となっているようだ。服の合間から冷えた空気が流れ込んでくる。
青年はと見れば、奥にあった食料庫の扉を開けて奥に向けて声をかけた。
「じいちゃん、ばあちゃん、連れてきたよ」
「おお、ありがとうのう」
扉の向こうから聞こえてきた老人の声には聞き覚えがあった。
じっと見つめているうちに、戸口に二つの影が立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます