第27話 ミオはアンドロイドの死亡宣告を聞く

「アンドロイド……?」


 ハルとダイは驚いて目を見張り、それから表情を曇らせた。


「ええ」

「配達を頼まれたって……依頼人は誰だ」


 詰問口調のハルにあたしは苦笑を浮かべた。


「依頼人については守秘義務があるから教えられないわ。それに……ホウヅカに到着したらキャンセルされたのよ。それ以来、うちのクルーになってるわ」

「クルー?」

「はぁ?」


 ダイとハルが同時に口を開く。


「キャンセルされたんなら発送元に返品で完了だろ? なんであんたの船にまだいるんだよ。それとも、そのアンドロイド使って強請りでもするつもりか?」


 ダイの目ははっきりと警戒の色を強めている。


「そんなわけないでしょ? というか、もしそんなこと考えてたら、二年も待たずにもっと前に実行してるわよ。そうでなくともジャンの代金の支払いで常時火の車なんだから」


 ムッとして言い返すと、今度はハルが口を挟んだ。


「なんでミオがアンドロイドの代金を肩代わりしてるんだ? ダイの言うとおり、発送元に返品すれば支払い義務は発生しないだろう?」

「それがね。……発送時の立会人に、起動輸送を勧められたんだよね。まさかさ、起動した時点で起動した人間がオーナーになって、しかも返品不可になるだなんて、知らなかったのよ」

「ああ……まあ、普通知らないよな」

「高性能アンドロイドなんて普通、縁がないからな」


 ダイもハルも納得したようで、揃ってため息をついた。

 っていうか、それを知ってるってことは、あんたたちはそういう世界の人間ってことよね。

 まあ、こんな避難小屋持ってたりプロ級の機材揃えてたりするあたりで、一般人じゃないよなとは思ったけど。


「じゃあ、キャンセルもそのせいで?」


 あたしは首を振った。


「そうじゃないのよ。依頼人に連絡を取ろうとしたら、代理人って人が出て、キャンセルの一辺倒でさ。何言っても頑として受け付けないって言われちゃって。ユニオンにも泣きついて間に入ってもらったんだけど、ダメだった」

「じゃあ、依頼人ってのは内乱の首謀者側の人間だったってことか」

「分からないし、知らない。内乱についても知らなかったし。あたしはただ、代金払ってもらえればよかっただけだから」


 今回、二年前に起こったという王庭の内乱について知ったのは偶然だったのだ。

 ジャンがまさか本当にそれ絡みだとは思わなかったけど。


「ジャンの精度がどれぐらい高いのかは知らないけど、医療キットをごまかせる程度の精度はあると思う。だから、その死亡通知、ジャンのものじゃないかな」

「……だといいんだが」

「だから、とにかく一度船に連絡させて。船に連絡を入れればジャンにも通知が行くはず。何とかして合流しなきゃ」

「もしそのアンドロイドのものでなかったとしたら」

「あんたたちの知る『彼』の死亡通知ってことになるわね」

「……分かった」


 ハルの言葉にダイは頷いた。


「通信は一方通行、三十秒しか話せない。内容をよく考えて決めてから声をかけてくれ。あと、連絡方法も」

「分かったわ」


 あたしは船への連絡方法をダイに伝えた。

 次は内容だ。どこを合流ポイントに指定するか。

 安全で、他のハンターたちの目に触れずに来られる場所。

 そう、ここみたいな。


「ねえ、ハル」

「ん?」

「あの、ここに誘導しちゃダメ?」

「……ここに?」


 ハルの表情が険しいものになる。


「あたしが外に出ていくわけにいかないし、ジャンも追われてるならここに潜ったほうが早いかなって思うんだけど」

「それは……危険性が増すな。港に引き返す絶好のチャンスに、デコイ連れて動くのはお勧めしない。何か理由があるのか?」


 あたしはうなずいた。


「ジャンはオーナーの命令いいつけを破ったことはないの。それが今回は命令違反をしてまで地上に来た。宇宙そらでなにかあったに違いないのよ。あたしが指名手配されてることも、ジャンが賞金首になってることも、無関係じゃないように思う。原因を元から断てば、逃げ回らなくても済むでしょ?」

「……理屈はわかった。が、ここはダメだ。通信が傍受され解読される可能性を考慮に入れておかないと、賞金稼ぎがドッとここに押し寄せることになるぞ」


 ダイが顔をしかめて指摘する。しばらく悩んでいたが、ハルはひらめいた顔をした。


「じゃあ、上の層のセーフハウスはどうだろう。あそこなら地下洞窟を通って来られる。電波も遮断できるし」

「あそこなら大丈夫だろう。上に連絡しておく」


 そう言うとダイはモニターに向き直り、キーボードに指を走らせる。

 あたしは首を傾げてハルを振り返った。


「ほんと、あんたたち何者? その『彼』と親しい存在なのね?」


 その言葉にハルは答えず、にっこりと微笑む。

 おそらくあたしの直感は正しい。……こういう時の勘って当たるのよねぇ。

 王として祭り上げられそうになった『彼』と関係の深そうな二人が、ただの一般人であるはずもない。


「セーフハウスまでの案内はこっちでする。あんたはそのアンドロイド向けの、あんただとわかる通信文を考えてくれ」

「もう考えてあるわ。何か書くものある?」


 差し出された紙とペンを受け取ると、さらさらと文章を書きつけてダイに差し出した。

 ダイはそれをちらりと見て眉根を寄せた。


「これで本当に伝わるのか? あんたからの通信だと」

「バッチリよ。じゃあ、お願い」


 しぶしぶ、といった風体でダイはモニターに向き直る。あたしはくるりと回るとじっと見守っていたハルに微笑んだ。


「喉乾かない? お代わり入れてくるわ。キッチン借りるわね」

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